表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/520

35話 影の試練

 その後も、ダンジョンの攻略は難航した。


 五分ごとに構造が変わる、複雑な立体迷路を攻略したり。

 番人が出す問題を十問連続で正解しないと先へ進めなかったり。

 暗号を解いて鍵を探すハメになったり。


 予想しないトラップばかりで、なかなかに苦戦させられた。


 なるほど。

 こんなトラップばかりだったら、全てをクリアーするのはかなり難しい。

 妖精の剣は、そんなトラップに守られているのだろう。

 だから、誰も手にしていない。納得だ。


「ソフィアは、妖精のゆりかごが、全何層なのか知っている?」

「少し曖昧な情報になってしまうのですが……とある情報筋からは、全十層と聞いています。ただ、絶対とは言い切れませんが」

「うーん、その情報を信じるなら、今は八層だから、あと少しっていうところか」


 ゴールに近づいていると信じたい。

 ここのトラップは、精神がゴリゴリと削られていくから……

 できることなら、そろそろ終わりにしたい。

 でないと、精神的な疲労から倒れてしまいそうだ。


「ソフィアは大丈夫? 疲れていない?」

「はい、大丈夫ですよ。これでも剣聖なので、まだまだ問題ありません」

「すごいなあ、ソフィアは。僕は、けっこう疲れてきたよ」

「なら、少し休憩しましょうか? 次の間に繋がる通路なら、たぶん、トラップはないはずですから」

「ううん、大丈夫。今までは、疲れていても病気になっていたとしても、動かないといけなかったからね。それに比べれば、かなり楽だよ」

「そんなことを聞かされても、まったく安心できないのですが……」

「本当に大丈夫だから。厳しい時は、素直に言うよ」

「絶対ですよ? 約束してくださいね?」

「うん、約束」


 指切りを交わした。


 それから、次のトラップがあるであろう部屋に。

 こちらの部屋は、今までと比べると狭い。


 なにもないのは今までと同じだけど……

 突然、仕掛けが作動したりするから、油断はできない。


「さて……今度は、どんなトラップなのかな?」

「気をつけてくださいね、フェイト。今までは非殺傷性のものでしたが、最深部に近づいてきた今、もしかしたら」

「……」


 あれ?


 途中でソフィアの台詞が途切れて、不思議に思い振り返ると、


「ソフィア?」


 いつの間にか、彼女の姿が消えていた。

 さっきまで、確かに数歩後ろにいたはずなのに、どこにもいない。


「これは……もしかして、すでにトラップが?」


 人を一瞬で消してしまうなんて、いったい、どんな方法が使われたのだろう?

 最大限に警戒するのだけど……

 でも、カラクリがまったく理解できない以上、警戒しても意味がないかもしれない。


「これから、いったいなにが……うん?」


 ガコン、という音と共に壁に亀裂が走り、扉が作り上げられる。

 その扉が開くと……


「「フェイト?」」


 それぞれの扉からソフィアが現れた。

 ただし、二人。


「え?」


 あまりにも予想外の光景に、一瞬、思考が停止してしまう。

 そうしている間に、二人のソフィアは互いの存在に気がついたらしく、共に怪訝そうな顔をする。


「「あなたは誰ですか?」」


「「……」」


「「私の真似をしないでくれませんか?」」


 声、仕草、雰囲気……全てが同じだ。

 二人のソフィアは瓜二つ。

 並行世界から別のソフィアを連れてきた、と言われたら納得してしまうかもしれない。


 でも、そんなことはないだろう。


 たぶん、これがトラップ。

 本物のソフィアを見極めろ、という内容なのだろう。


 それは二人のソフィアも理解したらしく、それぞれに自分が本物であることを訴える。


「「フェイト、騙されないでください。私が本物のソフィアです」」

「えっと……」

「「よく見てください。こちらの私は、わずかに違和感があります。私の幼馴染のフェイトなら、きっと気づくことができます」」

「あー……」

「「というか、いい加減に私の真似をやめてくれませんか? トラップとはいえ、私の真似をされるのは不愉快です」」

「んー……」

「「まったく、口の減らないニセモノですね……さあ、フェイト。ニセモノだと思う方を、バッサリと斬ってください」」

「えっ、これ、そういう方法で答えを選ぶの?」

「「はい」」


 二人のソフィアが頷いた。

 それぞれ、僕に対する絶対の信頼を瞳に宿している。


 二人共、僕の知るソフィアだ。

 どちらも本物に見える。


 見えるのだけど……

 でも、僕は最初から答えがわかっていた。

 一目見て、本物かニセモノか見分けがついた。


 絶対の自信がある。

 間違う可能性なんて欠片もない。


 ただ……


「ごめん、斬るのはダメ」

「「え?」」

「それしか解決方法がないとしても、ニセモノだとしても、ソフィアを斬りたくないよ。絶対に無理。そうしないと攻略できないっていうのなら、いいや。諦めて帰るよ。だから、ソフィアを返してくれないかな?」

「「フェイト、なにを言っているのですか? 私達のうち、どちらかを選んで……」

「二人共、ニセモノだよね?」

「「っ!?」」


 声も、姿も、仕草も……全てソフィアにそっくりだ。

 他の人なら騙されていたかもしれない、悩んでいたかもしれない。


 でも、僕を騙すことはできない。

 なにしろ……僕は、ソフィアの幼馴染なのだから。


「本物のソフィアは、君達のうち、どちらでもない。それが僕の答え」

「「……」」


 しばらくの沈黙の後、


「「なるほど、目は確かなようですね」」

「これで終わり?」

「「いいえ、まだです」」


 二人のソフィアは妖しい笑みを浮かべると……

 おもむろに上着をはだけ、白い肌を露出させた。


 二人は偽物。

 偽物なんだけど……

 好きな女の子とそっくりな姿で、そんなことをされたら、さすがに……


「な、なにを!?」

「「ここで引き返すのなら、私達のことを好きにしてもいいですよ?」」

「そんなこと……」

「「今度は即答しないのですね」」

「うっ……」


 いや、それは……

 僕も男だから。

 ダメだとわかっていても、なんかこう、心揺れてしまう時が……


 って、ダメだダメだ!

 こんなことをソフィアに知られたら……


『フェイト……ナニをしていたのですか?』


 頭の中で、にっこり笑顔で激怒するソフィアが鮮明に思い浮かんだ。


「と、とにかく、そういうことはしないから! ダメ、絶対にダメ!」

「「……」」


 二人のソフィアは無機質な顔に戻る。

 そして、その体が蜃気楼のように揺らいで、消えて……


「あら?」


 代わりに、新しいソフィアが現れた。


 うん、間違いない。

 このソフィアは本物だ。


「ふぅ……危なかった」

「え? どういうことですか?」

「おかえり、ソフィア」

「フェイト? えっと、その……はい、ただいまです」


 安堵故に思わず抱きしめると、恥ずかしそうにしつつも、ソフィアは抱きしめ返してくれた。

『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、

ブクマークや☆評価をしていただけると、とても励みになります。

よろしくおねがいします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 私も予想は当たってた。 だって言動が同じすぎだから、逆に違和感あったもん。特徴が無かった。人間味が無く、機械的だったからなあ。
[一言] >「ふぅ……危なかった」 >「え? どういうことですか?」 ソフィアちゃんの偽物に迫られてww 良心と悪魔が葛藤してしまった的なアレですwww
[一言] うん、これは偽物にルパンダイブで飛び込んだところで本物と入れ替わる妖精の悪戯ですねわかります。 そして、本物からバチコーンって殴られてパーティに亀裂と言うわけですね……一般的なパーティで( ̄…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ