347話 行方不明
翌日。
ソフィア達は別の宿を取り、そちらへ移動した。
尾行には細心の注意を払い、誰にもつけられていないことは確認済みだ。
一階の食堂で食事を食べようとするのだけど……
「……」
ソフィアは注文した料理に一切手をつけず、険しい表情をしていた。
そんな母を見て、アイシャはとても不安そうにする。
耳をぺたんと沈めて、尻尾をしゅんと落としてしまう。
「ごめんなさい、アイシャちゃん」
「……おかーさん……」
「ダメですね。心配をかけてはいけないのに、でも……」
ソフィアはすぐに険しい表情に戻ってしまう。
昨日、慌てて宿に戻ったものの……
結局、フェイトは見つからなかった。
爆弾でも爆発したのかと思うほどに荒れた部屋と、いくらかの血痕。
それだけが残されていた。
それから夜を徹してフェイトを探したものの、手がかりを得ることはできない。
ずっと探し続けることは体力的にも不可能。
それに、リケンに見つかるかもしれない。
仕方なく別の宿に移動して……そして、今に至る。
「……フェイト……」
ソフィアはフェイトのことで頭がいっぱいの様子だった。
なにも考えることができず、まともに食事をとることもできない。
ただただ、最愛の人のことで頭が占められている。
そんな彼女を見て、レナはため息をこぼす。
「もう……心配なのはわかるけどさ、心配だけしててもしょうがないじゃん? これからのことを考えないと」
「……その態度、あなたは、フェイトのことを心配していないですか?」
「もちろん、しているよ。フェイトなら大丈夫……って思いたいけど、状況的にやばいのは理解しているよ。ゼノアスのことを知っているから、ボクは、尚更絶望感が強いね」
「なら……!」
「でも、泣いてても仕方ないでしょ? フェイトがどうなっているのか、それはわからないよ。けろっと顔をだすかもしれないし……酷い怪我をしているかもしれない。なら、尚更ボク達ががんばらないと。そうでしょ?」
「……そうですね」
ソフィアはため息をこぼす。
それから、自分の情けなさを思い知り、もう一度ため息をこぼした。
レナの圧倒的な正論。
それに打ちのめされてしまいそうだけど、我慢だ。
それに、レナも辛いわけじゃない。
なんだかんだ、彼女はフェイトのことが好きなのだ。
好きな人が行方不明……その心はソフィアと同じだろう。
「なら、今後のことを考えないといけないね。あむ」
そうやって、ドーナツを食べつつのんびり言うのはクリフだった。
「ところで、どうしてあなたがこんなところに?」
「いや、先日会ったじゃないか」
「そうじゃなくて、タイミングが良すぎると思うのですが」
「スティアート君達の話を聞いて、僕もなにかしないといけないと思ってね。ギルドの方で、色々と調整をしていたんだ。で、調整に必要な資料を作成するため、街を歩き回って調査をしていたんだけど……」
「そこで私達と?」
「うん、そういうこと」
ソフィアは、じっとクリフを見る。
嘘を吐いている様子はなさそうだ、と判断した。
そもそも、以前、ちょっとした事件で協力したことがある。
今更、クリフが黎明の同盟に属していることはないだろうと、警戒を解いた。
色々とあって疑心暗鬼に陥っていたらしい。
反省しないといけない、とソフィアは己を戒める。
「スティアートさんのことはとても心配ですが……彼の言う通り、これからのことを考えましょう。そうすることで、スティアートさんを見つけることもできると思います」
エリンが場を仕切り直すように言う。
「黎明の同盟の本拠地については、上層部に報告済みです。国が全力をあげて、というのは難しいですが、特務騎士団の全てを動かしてくれることを約束してくれました。ただ、いくらか準備が……数日かかってしまうのですが、それはどうでしょう?」
「逃げられるかもしれない、っていう心配? それは気にしなくていいと思うよ。あっちはあっちでなにか企んでいるみたいだから、そんな簡単に本拠地を捨てるなんて無理だと思うんだよね。一ヶ月とか放置されたら微妙だけど、数日くらいなら問題ないよ」
「安心しました。ギルドは動いてくれますか?」
「もちろん。ただ……」
クリフは微妙な顔に。
「今回の件で、ギルドのトップが直接話をしたい、って」
「ギルドの……? その方は……」
「アルマリア・ユーグレット。聖女、って呼ばれている人さ」
そう言うクリフは、どことなく自慢そうな口調だった。




