339話 戦士の戦い
「このっ!」
瞬間、リコリスが魔法を唱えた。
部屋が閃光に包まれて……
視界が戻った後、アイシャとスノウとリコリスの三人は消えていた。
窓が開いていて、雨戸がキィキィと揺れている。
よかった。
うまく逃げることができたみたいだ。
ただ……
「……」
ゼノアスは大剣を構えたまま微動だにしない。
「終わりか?」
「……もしかして、三人を見逃してくれた?」
「見逃すつもりはない。しかし、戦士を無視することはできん」
「ありがとう、って言うべきなのかな?」
まだ剣を交わしていないけど、相当な強敵ということを感じた。
そんな相手に戦士と認められた。
素直に嬉しい。
まあ……
喜んでいる余裕なんて、すぐになくなるだろうけど。
「……」
「……」
もう言葉はいらない。
そう言うかのように互いに剣を構えて、にらみ合う。
永遠のような時間。
しかし、一瞬の時間。
「「はぁっ!!!」」
僕とゼノアスは同時に前に踏み込んだ。
攻撃は……僕の方が速い。
体格と剣の違いだろう。
ゼノアスの肩を狙い、剣を斜めに走らせる。
速度、角度、間合い……どれも申し分のない一撃だ。
ソフィアの特訓のおかげで、自分でも満足できる攻撃を繰り出すことができた。
しかし……
「むぅんっ!」
ゼノアスは大剣を盾のようにして、僕の一撃を防いだ。
攻撃を諦めて、すぐ防御に転じる。
その判断力は相当なものだ。
「なっ!?」
ゼノアスは大剣を盾のように構えつつ、その状態で突撃してきた。
剣士なのに剣を使わない。
突拍子のない攻撃に驚いてしまい、一瞬、反応が遅れてしまう。
「うぐっ」
直撃は避けたものの、それでも大きく吹き飛ばされてしまう。
壁に叩きつけられて、衝撃が全身に広がる。
でも、痛みに泣いているヒマなんてない。
唇を噛んで別の痛みでごまかしつつ、無理矢理体を動かした。
直後……
ザンッ!!!
大地を割るかのようなとんでもなく重く速い斬撃が落ちてきた。
斬るというよりも叩き潰す。
かろうじて避けたものの、衝撃で再び吹き飛ばされてしまう。
「はぁっ、はぁっ……!」
「今、捉えたと思ったが……避けるか。やるな」
「あなたこそ、とんでもないね」
この人は……なんて、とんでもない人なのだろう。
平然な顔をして巨大な剣を振り回している。
それも驚くべきことだけど……
それ以上に驚愕するべきことは、これだけの戦闘を繰り広げていながら、一切の殺気を放っていないことだ。
内職をするような感じで、淡々と剣を振っている。
まるで人形だ。
だからこそ、どこをどう攻めていいかわからない。
今まで戦ってきた強敵とは違うベクトルで厄介な相手だ。
どうする?
どうやって戦う?




