338話 青髪の襲撃者
その男は見上げるほどに背が高い。
身長は2メートルを超えているかもしれない。
筋肉もついていて、極限まで鍛え上げられている。
それでいて引き締まった体は、歴戦の戦士であることが伺えた。
背中に帯びた大剣。
彼と同じように巨大で、僕の剣が子供のおもちゃのように見えるほどだ。
なによりも特徴的なのは、彼の青い髪だ。
空のように青く、水のように澄んでいる。
思わず見惚れてしまいそうになるほど綺麗な髪だ。
「あなたは……」
アイシャ達を背中にかばいつつ、剣を抜いた。
「お前がフェイト・スティアートか」
男の声は氷のように冷たい。
ただ、敵意も殺意もない。
僕達のことをなんとも思っていない……
欠片も興味がないようだ。
「そして、そちらが巫女と神獣……ふむ、妖精もいるのか」
「あなたは……黎明の同盟の関係者ですか?」
巫女と神獣。
アイシャとスノウのことをそう呼ぶ者はとても限られている。
僕はさらに警戒度を引き上げた。
いつでも動けるように足に力を入れつつ、闘気を高める。
ただ、それでも男は反応しない。
日常の中にいるという感じで、背中の剣を抜くこともなく、プレッシャーを放つこともしない。
その静けさが逆に不気味だった。
「ああ、その通りだ」
「あっさりと認めるんですね」
「下手にごまかしても仕方ないだろう? それに、その方が話が早い」
男は丁寧にお辞儀をする。
「俺の名前は、ゼノアス。姓は捨てた」
「っ……!?」
黎明の同盟の幹部の……?
本物なのか?
……本物なんだろうな。
そうでなければ、この圧はないだろう。
なにもしていないのに息苦しさを感じるほどだ。
猛獣を目の前にしているかのように、一瞬たりとも気を抜くことができない。
「巫女と神獣をもらいうけにきた」
やっぱり、そういう話になるよね。
できれば違う展開を希望したのだけど、そんな甘くはないみたいだ。
「……リコリス」
小声で呼んだ。
「……二人を連れて逃げて」
「……えっ、ちょ……フェイトはどうするのよ?」
「……なんとか時間稼ぎをする」
「……それならあたしも」
「……ダメ。今は、なによりもアイシャとスノウの安全が一番で……それに、自分のことだけを考えて戦わないと、たぶん、すぐにやられる」
ゼノアスが戦うところを見たわけじゃない。
まだ彼は剣すら抜いていない。
それでも、とんでもない強敵ということは理解できた。
本能が危機を感じて、頭の中で警笛が鳴りっぱなしだ。
背中も震える。
正直、逃げてしまいたいくらいなのだけど……でも。
「アイシャとスノウは僕が守る」
改めて剣を構えて、ゼノアスを睨みつけた。
「良い気迫だ」
表情は変わらないものの、そう言うゼノアスは少し優しい雰囲気を見せた。
しかし、それも一瞬。
背中の大剣に手を伸ばすと、ビリビリと空気が震えた。
「お前を敵と認めよう」
「……」
「いざ参る」




