323話 お約束・その2
「スノウ、こっちこっち!」
「オンッ!」
湖の浅いところでアイシャが水しぶきを上げつつ駆けて、スノウがそれを追いかける。
アイシャは時折足を止めて、水をすくってスノウにかけていた。
お返しとばかりにスノウは尻尾を器用に使い、水をかけ返す。
「はー……生き返るわー」
リコリスは両手足を広げて、ぷかぷかと浮いていた。
とても気持ちいいらしく、その表情はとろけきっている。
そして、ソフィアは……
「ふふ、涼しくて気持ちいいですね」
「う、うん……そうだね」
膝の辺りまで水に浸かり、僕に白い肌を見せていた。
正確に言うと……水着姿だ。
色は白。
背中に大胆なカットが入っている。
清楚でありつつ扇状的でもあるという、どこか矛盾した水着だ。
でも、それはソフィアにとてもよく似合っている。
似合っているからこそ直視するのが恥ずかしくて、照れくさくて、ついつい目を逸らしてしまう。
一緒に水浴びをしようと言われた時は驚いたけど……
水着を着て、ということなので納得の話だ。
ただ、これはこれで恥ずかしい。
「フェイト、私の水着はどうですか? 似合っていませんか……?」
「え? あ、うん……す、すごく似合っているよ」
「なら、どうしてこちらを見てくれないのですか?」
「それは、その……」
「えいっ」
「ふわ!?」
抱きつかれてしまう。
水着姿でそんなことをしたら、いつも以上に、その……感触が大変なことに。
「ふふ。もしかして、照れているんですか?」
「えっと……」
「嬉しいです。フェイトがそういう目で私を見てくれて」
「そこ、怒るところじゃないの?」
「好きな人が私に注目してくれる……女性として、とても嬉しいことですよ?」
そういうものなのかな?
「それで……私の水着姿、どうですか?」
「えっと、その……すごく綺麗で、でもかわいくて、なんかもう……最高です!」
「ふふ、ありがとうございます」
満足したらしく、ソフィアは僕から離れた。
そして、ぱしゃぱしゃと水をかけてくる。
「わぷっ」
「せっかくの水浴びなんです。フェイトも楽しみましょう?」
「……そうだね」
目に毒な光景……
いや、幸せ?
そんな状況だけど、これはこれで気にしない。
今この時間を楽しむことにしよう。
……王都に行ったら、そんな時間はないかもしれないからね。
「えいっ」
「きゃっ、やりましたね! んー……えいっ!」
「わわわっ」
水のかけっこをする。
それだけなのにすごく楽しくて、笑顔があふれて止まらない。
「やれやれ」
いつの間にか浮き輪を使ってぷかぷかと浮いているリコリスは、そんな僕達を見て苦笑する。
「いつでもどこでも、あの二人は変わらないわねー」
「おとーさん、おかーさん、仲良し!」
「オンッ!」
「違うわ、アイシャ。ああいうのは……」
「ばかっぷる?」
「それも違うわ。あの二人は、ばかっぷるを超えたばかっぷる……そう、どばかっぷるよ!!!」
「おー」
リコリスの迫力に感じるものがあったのか、アイシャはぱちぱちと拍手をして……
「娘に変なことを教えないでください!」
「ぎゃん!?」
しっかりと話を聞いていたソフィアが水を放ち、リコリスは吹き飛ばされるのだった。




