322話 お約束・その1
レノグレイドを出発して、王都に向かう旅が始まる。
王都まで、大体一ヶ月。
長い旅だけど、アルベルトにもらった馬車のおかげで快適に過ごすことができた。
そんなある日のこと。
「暑い暑い暑いあーーーつーーーいーーー!!!」
リコリスがへろへろとした様子で馬車の中を飛びつつ、しかし、声は元気に叫ぶ。
その声は御者台まで届いていたらしく、ソフィアの声が飛んでくる。
「騒がないでください。余計に暑くなりますよ」
「でもでも、この暑さは我慢できないって。可憐でか弱いリコリスちゃんには、マジきついんですけど」
「確かに、今日は暑いからね……」
太陽が元気に輝いていて、さんさんと日光が降り注いでいる。
「はふぅ……」
「オフゥ……」
汗がたくさん流れてしまうような気温に、アイシャとスノウもバテている様子だ。
それでも寄り添い離れないくらい、二人はとても仲が良い。
「ねえねえ。この馬車、魔法でちょっと凍らせてもいい?」
「今度は、寒いって言う未来しか見えないからやめて」
「うー、この暑さ、我慢できないですけど!」
リコリスが叫んで、
「ふへらぁ……」
へろへろと墜落した。
慌てて手の平で受け止める。
「大丈夫?」
「だいじょばない……干しリコリスちゃんになっちゃいそう、地域の名産になっちゃうわ……」
訳がわからない。
これ、本当に危ないかも。
御者台に通じる道が確保されているので、そちらに顔を出す。
「ソフィア、大丈夫?」
「私は平気ですが……」
僕の手の上でぐるぐると目を回すリコリスを見て、ソフィアがため息をこぼす。
「そちらはダメっぽいですね」
「どこかで休憩できないかな?」
「そうですね、そうしましょうか。昼、無理に進むよりも、涼しくなる朝や夕方に進むことにしましょう」
そう言って、ソフィアは地図を取り出した。
これもアルベルトからもらったもので、かなり詳細な地形が書き込まれている。
改めて感謝だ。
「この辺りで休憩できそうなところは……あ、近くに湖がありますね」
「湖!」
「うわっ」
突然、リコリスが跳ね起きた。
さきほどまでの様子はどこへやら、目をキラキラと輝かせて言う。
「あたし、水浴びしたいわ! 水浴び!!!」
「水浴びですか? でも、その湖が安全なところかどうかは……」
「とりあえず行ってみましょう。それで魔物がいそうなら、フェイトやソフィアがなんとかすればいいじゃない」
「やめる、っていう選択肢はないみたいだね」
ついつい苦笑してしまう。
「ソフィア、行こうか」
「もう。フェイトはリコリスにも甘いですね」
「あはは」
笑ってごまかしておいた。
それから進路を少し変更して、湖方面へ。
30分ほど進んだところで湖が見えてきた。
「わぁ」
とても広く綺麗で、湖面がキラキラと輝いていた。
それだけじゃなくて、よく見てみると湖底も映っている。
水浴びだけじゃなくて、ここで水の補給もできそうだ。
「魔物の気配は……ないっぽいね」
奴隷だった頃、見張りを何度もやらされていたため、気配探知には自信がある。
「では、ここで休憩にしましょうか。水の補給もしておきたいですね」
「あたしは水浴びをするわ!」
「そうですね。私達も休憩が必要なので……フェイト」
ソフィアは少し頬を染めつつ、こちらを見る。
「一緒に水浴びをしませんか?」