318話 足止め
「……」
レノグレイドから少し離れたところに人影があった。
なにをするわけでもなくて、遠く離れた街をじっと見つめている。
ほどなくして、人影……リケンはため息をこぼす。
「やれやれ、失敗したな」
グルドに接触して、甘い言葉をささやいて、魔剣を渡した。
他にも、いくらかの資金援助を行った。
リケンに……黎明の同盟に、レノグレイドをどうこうしよう、という狙いはない。
ただ単に、フェイト達の足止めをするために利用しただけだ。
まだ未熟なところはあるものの、恐ろしい速度で成長し続けるフェイト。
剣聖という極みに到達して、聖剣を持つソフィア。
二人は強敵だ。
黎明の同盟にとって大きな脅威となるだろう。
だからこそ、足止めをするためにグルドを利用したのだけど……
「ああも簡単にやられてしまうとはな」
リケンは、もう一度ため息をこぼした。
グルドに渡したのは、それなりに強力な魔剣だ。
量産品ではあるものの、その中でも一番質が高いものを選んだ。
そして、グルドは魔剣に対する適正があった。
魔剣の力を引き出すことができる。
100パーセントとは言わないものの、80パーセントくらいは可能だっただろう。
事実、フェイトと良い勝負をした。
それを影から見ていたリケンは、もしかしたらこのまま倒してくれるのでは? なんていう期待もした。
しかし……結果は惨敗だ。
グルドがフェイトに届くことはなくて、最終的に圧倒された。
魔剣という証拠も残すことになってしまった。
「……今なら、レナがあの小僧に執着していた理由がわかるな」
最初は、ただの少女の気まぐれと思った。
しかし、今は気まぐれで片付けることはできない。
それほどまでの力。
それほどまでの成長率。
あの少年は……恐ろしい。
「もしや、剣聖以上の脅威となるかもしれぬな」
フェイトは黎明の同盟のことを知っている。
その素性や目的を把握している。
規模や隠し持っている切り札などはさすがに知られていないが……
放置すれば、いずれそれらにたどり着くかもしれない。
ふむ、と。
リケンは顎に手をあてて考える。
「ここで潰すことは……さすがに難しいな」
剣聖がいる。
妙な妖精もいる。
巫女と神獣もいる。
命を賭けたとしても、十中八九、返り討ちに遭うだろう。
やるならば徹底的に準備をしてからだ。
「……そうだな。一つ、試してみるか」
しばらく考えて、リケンはとある策を思いついた。
いっそのこと、フェイトの行動を邪魔しない。
王都までやってくるのを待つ。
懐に潜り込まれてしまうものの……
しかし、王都は黎明の同盟の本拠地がある。
こちらのホームだ。
全力で、確実に叩き潰すことができる。
リスクはあるものの、リターンの方が大きい。
リケンはそう判断した。
「確か……フェイト・スティアートといったな」
リケンは口元に笑みを浮かべる。
その笑みは……
「王都にて待っているぞ。そして……そこが、お前の旅の終着点となろう」
とても邪悪なものだった。




