315話 従え
「さあ、儂の力に従うがいい!」
「っ!?」
グルドが地面を蹴り、突撃してきた。
速い。
風をまとうような動きで、滑らかで、それでいて目に止まらないほどの速度だ。
一瞬で目の前にやってきて、魔剣を振る。
流星の剣の腹で魔剣を受け止めて……
すぐに剣を斜めにして、刃を受け流す。
相手の攻撃が流れたところで反撃。
魔剣を振り抜いて、完全に無防備になっているグルドの脇を狙い、剣を叩き込む。
ガッ!
「なっ」
確かに刃を叩き込むことができたのだけど、しかし、鈍い感触で弾かれてしまう。
鎖帷子かなにかを着込んでいるのだろう。
その対策は考えていなかったわけじゃないけど……
流星の剣の刃を通さないほど頑丈なものは、さすがに想定外だった。
そんなものを着込んだら、相当な重さになるはずなのだけど……
しかし、グルドは速い。
「それで終わりか、小僧!」
「小僧じゃありません。フェイトっていう名前があります!」
すぐに体勢を立て直して、グルドの猛攻を防ぐ。
縦から下に。
途中で跳ね上がり、斜め上へ。
そこから真逆に飛び、水平に剣が振られる。
変幻自在の剣技だ。
速くて重い。
見切るのが大変なだけじゃなくて、一撃を受ける度に手が痺れてしまう。
「あなたは……!」
これだけの力、一朝一夕で手に入れることはできない。
魔剣を手に入れたとしても、ここまでの技術は身に着けられない。
この剣技は……この人自身のものだ。
「それだけの力を持っているのに、どうして、誰かを苦しめるようなことを!?」
「それが強者の権利だ!」
「権利だって!?」
「強者が弱者を従える。それがこの世の理だろう! なればこそ、儂がどのようなことをしても、なにをしても自由! そう、これは儂に与えられた特権なのだ!」
「あなたという人は……!」
……かつての仲間のことを思い出した。
Aランクに登りつめた実力者。
でも、力を得たことで彼は傲慢になって、なにをしてもいいと勘違いをして……
そして、最終的に破滅した。
力があるからなにをしてもいい、なんてことは絶対にない。
力があるから、人よりやれることの選択肢が増える。
ただ、それだけのはずなのに……
なんで、誰も彼も勘違いするんだ!!!
少しでもいいから、誰かを想う心を持てば、色々なことが変わるのに。
世界はもっと優しくなるはずなのに。
それなのに、どうして……!!!
「それは思い上がりですよ!」
「ほざけ!」
「なんでもできるっていうのなら、誰でも従えることができるっていうのなら……僕を倒してみてください!」
「言われずとも!」
こんな人に、絶対に負けてやらない。
負けてなんかたまるものか!
心が熱い。
体に熱が灯る。
絶対に……倒す!!!
「うわぁあああああっ!!!」
「ぐっ……こ、この力は!?」
心が燃える。
想いが燃える。
それらを力とするように、何度も何度も攻撃を繰り返して……
そして、ふと気がついた。
「……光ってる?」
流星の剣の刀身が、わずかに輝いていた。




