311話 黎明の同盟の影
工業地帯の一角。
そこに、グルドが所有するセーフハウスがあった。
外観はただの倉庫。
しかし、中は快適に過ごせるように改造されているという。
「あれが、私が知るグルドのセーフハウスなのだけど……」
「当たりかもしれないですね」
倉庫の外にいくらか人がいた。
いずれも武装してて、周囲を警戒している。
それだけじゃない。
倉庫の中から、さらにたくさんの気配がした。
これだけのトラブルが起きている中、これだけの人数がセーフハウスに集まっている。
まず間違いなく、あの中にグルドがいるだろう。
「場所を見つけられたところまではいいが……問題は、こちらの戦力だな」
僕とアルベルトの二人だけ。
うまく立ち回れば、二人でやってやれないことはない。
ただ……
「魔剣使いが敵にいたら……まずいかも」
黎明の同盟がグルドに協力していたら?
協力していなくても、この嫌な気配から考えると、敵が魔剣を持っていることは確定だ。
とても強力な武器なので、僕達だけで対処できるかどうか……ここはもう、賭けになってしまう。
「魔剣というのは、そんなに厄介なものなのかい?」
ここに来る途中、魔剣について軽く説明をしておいた。
ただアルベルトは、いまいちピンとこない様子だ。
「ものすごく厄介なものです。そうですね……」
少し考えて続きを口にする。
「鉄をバターのように斬ることができて、おまけに、身体能力を強化することができます」
「それは、また……」
「最下位の魔剣で、それです。もしもレベルの高い魔剣を敵が所有していたら……」
「最悪、剣聖殿に匹敵する力を持つ、と考えた方がいい……というわけか」
「はい」
普通に考えるのなら、一人、この場に残って様子を見る。
その間に、もう一人が援軍を連れてくる。
それが最善だ。
ただ、時間をかければかけるほど被害が拡大してしまうし……
この混乱だ。
うまく援軍を連れてこられるかわからない。
「……」
アルベルトは倉庫を睨みつつ、思考を回転させていた。
僕としては、突入する方に賛成だ。
ただ、気軽にアルベルトを巻き込むわけにはいかないので、最終的には彼の判断に従おうと思う。
「……よし」
ややあって、アルベルトは小さく頷いた。
「君には迷惑をかけてしまうが……ここは、すぐに突入したいと思う」
「いいんですか?」
「ああ、リスクは承知の上だよ。色々な問題はあるけれど……しかし、一刻も早く事態を収拾したい。そのために、できることをやると決めた」
「わかりました。僕も、できる限りのことをします」
「すまない」
アルベルトも、僕を危険に巻き込むことを申しわけなく思っているみたいだ。
その頭を下げる。
でも……
「謝らないでください」
「しかし」
「それよりは、別の言葉が欲しいです」
「それは……ああ、なるほど」
こちらの言いたいことを理解した様子で、アルベルトは苦笑した。
「君は、本当に気持ちの良い男だな。同じ男として、その格好良さに嫉妬してしまうよ」
「そ、そんなことは……」
「照れなくてもいい。それと……ありがとう」
「はい」
最初は、アルベルトに嫉妬とかしていたのだけど……
でも、今は彼に好感を持っていた。
立場は違うけど、もしかしたら友達になれるかもしれない。
そんなことを思うのだった。