310話 領主を追って
「いたぞ、領主の息子だ!」
「ヤツを捕まえて領主の居場所を……ぐは!?」
どこからともなく現れた革命軍を、アルベルトは剣で斬り伏せた。
不意打ちをしかけられているのだけど、まったく慌てていない。
それどころか、相手の命を奪わないように、きっちりと手加減している。
なかなかできることじゃない。
「強いんですね」
「なに、護身術程度さ。君には劣る」
「そんなことはないですよ」
「……なにもないような顔をしつつ、すでに私の倍以上を倒しているのを見ると、まるで説得力がないのだが」
アルベルトが苦笑した。
確かに、僕も革命軍を倒している。
きちんと手加減をしている。
ただ、一応、冒険者だ。
これくらいはやらないと恥だ。
「領主はどこにいると思いますか?」
アルベルトと肩を並べて街中を駆けつつ、そう問いかけた。
「私がセーフハウスを持つように、グルドもセーフハウスを持つ。そのどこかにいると思うが……」
「数は?」
「……わからない。十は超えるだろう。ただ、二十には届かないと思う」
「厄介ですね」
セーフハウスが一箇所に固まっている、なんてことはまずない。
街中に散らばるように配置されているだろう。
運が良ければすぐに見つけられる。
でも、運が悪いと街中を駆け回ることになる。
そんなことになれば、その間、被害は拡大する一方で……
とてもじゃないけれど現実的な方法じゃない。
「心当たりは?」
「……すまない。いくらかはあるものの……しかし、私は、グルドのセーフハウスの全てを把握しているわけではない。そうなると……」
「どこを探せばいいかわからない……というわけですね」
「ああ」
まいったな。
一刻も早く事態を解決しないといけないのに、今のところ、その道筋が見えてこない。
情報がまったくない以上、片っ端から探して回るしかないのだけど……
でも、アルベルトも全てのセーフハウスの場所を知っているわけではない。
下手をしたら空振りが続いて、いつまで経っても領主のところへたどり着くことができない。
敵を捕まえて尋問してみる?
でも、うまいこと領主の場所を知っているとは思えない。
前線で暴れ回る兵士に大事な情報を渡すとは思えないし……
「……仕方ない。時間はかかるかもしれないが、心当たりのあるセーフハウスを順に回ってみよう。その上で、グルドの居場所の手がかりを探そう」
「そう、ですね……」
それしかない。
ないのだけど……
相当に時間がかかってしまう。
被害が拡大してしまう。
ここまで関わった以上、最善の結果をつかみ取りたいのだけど……
「あれ?」
ふと、妙な気配を感じた。
「どうしたんだい?」
「えっと……ちょっと待ってください」
足を止めて、目を閉じる。
集中。
心を広げて、周囲と一体化するようなイメージ。
気配と感覚を広げていく。
ソフィアにならった探知方法だ。
無防備になってしまうものの、これなら遠くまで色々な気配を探ることができるとか。
「これは……」
覚えのある気配を感じた。
といっても、領主というわけじゃない。
領主と顔を合わせたことはないから、彼の気配なんて知るわけがない。
僕が感じた気配。
それは……
「……魔剣……」
とても禍々しい気配。
触れているだけで、心がざわざわする。
落ち着かなくて、気分が悪くなるような、ひどく不快なもの。
間違いない。
これは魔剣の気配だ。
レナと何度も戦ったりしているから、魔剣の気配とか、感覚的にだけど覚えた。
ということは……
もしかして、今回の事件、黎明の同盟が絡んでいる?
「魔剣? なんだい、それは」
「えっと……詳細を説明すると長くなるので簡単に言いますけど、呪われた武器みたいなものです。ものすごく厄介な武器で、魔剣が原因で色々な事件が起きています」
「ふむ……その気配を感じるんだね?」
「はい」
「それは、どっちだい?」
「えっと……あっちですね」
嫌な感じがする方を指さした。
すると、アルベルトは険しい表情に。
「……私が知るセーフハウスが、ちょうどそちらの方角にあるね」
「なら……」
「もしかしたら当たりかもしれない。行ってみよう」
「えっと、いいんですか? 僕も、確証があるわけじゃあ……」
「なに、他に手がかりはないからね。無闇に探し回るよりはマシだろう。それに……」
「それに?」
「私は、君を信じているよ」
敵わないなあ……と、僕は苦笑するのだった。




