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306話 大混戦

 急いで鉱山を出ると、


「これは……」


 街のあちらこちらで火の手があがっていた。

 風に乗って人々の怒声と悲鳴が聞こえてくる。


「ひどい……」

「どうして、こんなことに……」

「アスカルト殿! スティアート殿!」


 振り返ると、アルベルトが駆けてきた。

 普段の冷静な姿はどこへやら、大粒の汗を流して、焦りの表情を浮かべている。


「よかった! 二人共無事だったか」

「いったい、なにが起きているんですか?」

「……いいようにやられてしまった」


 アルベルトは苦い顔をして語る。


 グルドは、アルベルトの簒奪計画を見抜いていたらしい。

 圧政を敷く愚者だとしても、悪知恵は働くようだ。


「父は……グルドは、この機会に私を含めて、反乱分子をまとめて潰すことを計画した」

「と、いうと……まさか」


 とある可能性に思い至り、顔を青くした。


 アルベルトは、その通りというように頷く。


「グルドは、巧みに情報を操作して、私達とは別の革命軍を動かしたのだよ。本来なら、まだ猶予があるはずなのに……うまいこと動かされてしまったのだろう」

「そうやって反乱分子を煽り出して……それだけじゃなくて、僕達の行動を阻害するために、ぶつける?」

「ああ、その通りだ。おかげで、私達の計画は大きく狂ってしまった。そして……」


 とても苦い顔をして、アルベルトは街を見た。


 火の手はどんどん大きくなる。

 怒声と悲鳴も、それに合わせて大きくなる。


「ひどい……」

「グルドは愚かな為政者ではあるが、まさか、平然と守るべきはずの民を巻き込むなんて……」


 人の心がないのか。

 そんな怒りの感情を宿して、アルベルトは拳を強く握っていた。


「……街の状況はわかりますか?」


 一人、努めて冷静を貫いているソフィアは、静かにそう尋ねた。


「もう一つの革命軍が、街のあちらこちらでデタラメに暴れている。彼らはグルドを探し出して処刑するつもりのようですが……残念ながら、ヤツの方が上手です。うまい具合に誘導されて、このままだと各個撃破されてしまうでしょう」

「被害状況は?」

「……見ての通りですよ。街全体に及んでいる」


 この事態を止められなかった責任を感じているらしく、アルベルトはとても悔しそうだ。


 でも、今は後悔している時じゃない。

 この事態を止めることだけを考えないと。


「このような事態を招いてしまい、巻き込んでしまい、申しわけない……ただ、これ以上悪化させるわけにはいきません。お二人共、どうか力を貸してください!」

「すみませんが、私は無理です」

「えっ」


 断られるとは思っていなかったのか、アルベルトは呆気にとられた表情に。


 ただ、僕はソフィアの考えていることを理解した。

 というか、ほぼほぼ同じことを考えている。


「私は、アイシャちゃんとスノウとリコリスを守らないといけません。彼女達のところへ向かいます」

「し、しかし、この惨事を止めなければいつまでも……」

「そちらはフェイトに任せます」

「うん」


 ソフィアなら、そう言うと思っていた。

 だから、すぐに頷くことができた。


 ソフィアは家族を守る。

 そして僕は、家族に害を成す根源を断つ。

 適材適所だ。


「グルドの居場所に心当たりは?」

「……あります」

「では、フェイトと一緒に……お願いします。私は、大事な家族を守らなければいけないので、動くことはできません」

「しかし……いや、うむ。わかりました。彼と一緒に、必ずこの事態を収拾してみせましょう」


 僕は剣聖ではなくて、ただの冒険者。

 信じられるのかどうか、アルベルトは迷っていた様子だけど……

 それも少しで、すぐに納得してくれた。


 こういうところ、彼は本当にすごいと思う。

 疑問は色々とあるだろうけど、それらを全て飲み込んで、今できることをやる。

 最善の手を打つ。


 なるほど。

 アルベルトの方が、よっぽど領主にふさわしい。


「スティアート殿、行きましょう!」

「はい!」


 駆け出そうとして、


「フェイト」


 声をかけられて、ソフィアの方を見る。

 彼女は心配そうにしつつ、でも、微笑んでいた。


「がんばってくださいね」

「うん!」


 ソフィアの応援があれば百人力だ。

 僕は気合を入れて、今度こそ、アルベルトと一緒に駆け出した。

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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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