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304話 無事に終わった時には……

 夜。


「……」


 ソフィアは庭に出て、月夜を見上げていた。

 その横顔は無表情で、なにを考えているか察することは難しいだろう。


 ザッ、という草を踏む音。


 それでもソフィアは振り返らない。

 ただ、月夜を眺める。


「綺麗ですね」


 姿を見せたのはアルベルトだった。

 ソフィアの隣に並んで、同じく月を見上げる。


「眠れないのですか?」

「それ、私のセリフですよ」

「はは……いや、情けない話ですが、緊張していまして。いよいよ明日と思うと、なかなか眠ることができず」


 明日、レノグレイドの領主グルドは、鉱山を視察することになっていた。

 採掘量が若干落ち込んでいるため、その調査に同行するためだ。


 場所が場所だけに、大人数で行くことはできない。

 また、街の中ということで護衛は最小限。


 グルドを討つ絶好の機会であり……

 いくらかの検討が重ねられた結果、作戦を実行することとなった。


 急といえば急な話だ。

 しかし、こういう機会は突然巡ってくるもの。


 このチャンスを逃せば、次はいつになるかわからない。

 その間、民は苦しみ続ける。

 大規模な武装蜂起が発生するかもしれない。


 それらのことを考えると、この機会を逃すわけにはいかない、という結論になったのだ。


「少し意外ですね」

「おや、なにがでしょうか?」

「これだけのことを考える人なので、とっくに覚悟は決めていると思いました」

「覚悟なら決めていますよ」


 アルベルトは即答した。

 その顔に迷いの感情はない。

 怯えの色もない。


 ただ、まっすぐに前を向いていた。


「なにがあろうと、父を……グルドを討つ。そして、街を救う。そう決意をしております」

「それなら……」

「ですが、私も人間ですからね。感情を完全に制御することはできない。覚悟は決めましたが、それでも、時折、感情が揺らいでしまうのですよ」

「……そうですか」


 ソフィアはアルベルトの感情に理解を示した。

 なぜなら、ソフィアも緊張しているからだ。


 力を貸すと決めたものの……

 失敗したら、とんでもないリスクを負うことになる。

 死ぬかもしれないし、そうでなくても、指名手配などをされて一生が終わるかもしれない。


 自分一人だけなら問題ないのだけど……

 フェイトやアイシャも関わってくると、さすがに緊張せずにはいられない。


 リコリス?

 彼女は……まあ、なんとでもなる。


「ただ、明日になる前にアスカルト殿に会えたのは幸いでした」

「なにか私に話でも?」

「はい」


 困った……と、ソフィアは内心で眉をたわめた。

 おそらく、妻になってほしいとか、そういう話だろう。


 アルベルトのことは嫌いではない。

 誠実な人であるし、能力も高い。


 ただ、すでにフェイトがいる。

 自分は彼のものだ。

 他の誰かのものになるなんて、欠片も想像することができない。


「一つ、お願いがあります」


 アルベルトは、そんなソフィアの内心を察したのか、直接的な話はしない。


「今回の件がうまく解決したら……その時は、こうして、また二人で話をする機会をいただけませんか?」

「それは構いませんけど……今じゃなくていいんですか?」

「今はやめておきましょう。そうしてしまうと、気が緩んでしまいそうなので。ですから、話は事件が解決した後に」

「……それ、フラグになりません?」

「なるかもしれませんね」


 アルベルトは笑う。


「ですが、そのようなフラグ、へし折ってやりましょう」

「あら」

「そして、またアスカルト殿に話をする機会をいただきたいと思います」


 思っていた以上に強い人だ。

 ソフィアは、心の中でアルベルトに対する評価を上方修正した。


 もっとも、それでもなお、フェイトに届くことは絶対にないのだけど。


「わかりました、約束します」

「ありがとう」


 よほど嬉しいらしく、アルベルトは子供のように笑う。


「それと、もう一つ。わがままを言ってもいいですか?」

「なんですか?」

「もう少しだけ、一緒に月を眺めていてもよろしいでしょうか?」

「……いいですよ」


 ソフィアとアルベルトは、それ以上は言葉を交わすことなく、静かに月を見上げるのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] まぁ実際リコリスは何とかなるだろう 笑
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