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302話 嫉妬

 協力する旨を伝えると、アルベルトはものすごく喜んでくれた。

 作戦の詳細は後日ということで、今は休んでほしいと、ベッドがある別の部屋に案内された。


 素直に好意に甘えることにして、僕達は体を休めることに。


 おいしいごはんをたくさん食べて、お風呂でゆっくりくつろいで……

 それからベッドに入る。


「……」


 ベッドに入ったけど、なんだか眠くならなくて、僕は部屋に備えつけられていたテラスに出た。

 夜空を見上げると、三日月が輝いていた。


「なにしてんの?」


 振り返ると、リコリスがふわふわと浮いていた。


 普段の服じゃなくて、パジャマ姿だ。

 おまけに、ナイトキャップをかぶっている。


 当然、リコリスに合わせたミニマムサイズだけど、どこで調達したんだろう?


「なんだか眠れなくて」

「ふーん」

「リコリスは? もしかして、起こしちゃった?」

「いいわよ、気にしないで。年上のお姉さんとして、悩める青少年の話に付き合うのも美少女妖精の務めだもの」


 長いこと一緒にいるけど、そんな務め、初めて聞いた。


「最近、ずっと考え事してる感じだけど、どうしたのよ? ほら、話してみなさい」

「悩みを強制的に聞き出すって、なかなか斬新だね」


 でも、今の僕にはちょうどいいのかもしれない。

 リコリスに感謝しつつ、胸のもやもやを言葉にする。


「アルベルトに協力することだけど……うん。そのこと自体は良いんだ。そうした方が良いって判断して、それに後悔はなくて……なんとかしたいと思うから」

「それで?」

「でも……なんか、もやもやするんだ。あと、なんかアルベルトと一緒にいたくないというか……」


 たぶん、悪い人じゃないと思う。

 簒奪という過激な方法を選んでいるけど、それは、現状に苦しむ民を思えばこそだ。


 一刻も早く圧政から民を解放して……

 それと同時にクーデターを防いで、たくさんの血が流れることを阻止する。


 そのために行動しているアルベルトは、たぶん、良い人なんだと思う。

 思うのに、もやもやしてしまう。

 彼と一緒にいたくないと思ってしまう。


 これ、なんだろう?


「それは嫉妬ね」


 僕の話を聞いたリコリスは、さほど迷うことなく、そう断じた。


「嫉妬?」

「意味はわかるわよね?」

「そりゃあ、もちろん。でも……」

「単純な話よ。アルベルトは、ソフィアに告白したでしょ? そのことについて、フェイトは嫉妬しているのよ」

「……」


 まったく予想外の結論を突きつけられて、キョトンとしてしまう。


 僕がアルベルトに嫉妬?

 彼がソフィアに告白したから?


 そんなまさか、と思うのだけど……

 でも、リコリスの推測を否定する材料は見つからない。

 というか、冷静になって考えると、その通り、と思うような心当たりが多すぎる。

 自覚もたくさん出てきた。


「そっか……僕、アルベルトに嫉妬していたのか……」

「それと、ライバルに思えるから気を許していない、っていうのもあると思うわよ。ほら。フェイトってば、大抵、初対面の人はさんづけで呼ぶのに、アルベルトだけアルベルトじゃない? つまり、そういうことよ」

「それは……まったく自覚していなかったかも」


 ほぼほぼ無意識でアルベルトのことを呼び捨てにしていた。

 それも、彼を特別に意識しているせいなんだろう。


 色々な事実を知り、なんていうか……


「……恥ずかしい」

「なんでよ、恥ずかしがる必要なんてないじゃない」

「だって、嫉妬とかライバル心とか、僕が一人で勝手に思っているだけなんだよ? 向こうはなにも気にしていないと思うし、ソフィアだって……それなのに僕は……はぁ」

「いいんじゃない? 嫉妬もライバル心もアリよ」

「そう……かな?」

「まったく、フェイトは女心がわかってないわね。こういう時、なにも感じていない方が嫌なのよ。嫉妬されたり、ライバル心を持ったり……そういう方が嬉しいの。この人は私のためにがんばってくれているわー……って、満たされるのよ」


 わかるような、わからないような。


 でも……

 もしかしたら、僕は気にし過ぎだったのかもしれない。

 気持ちの整理は簡単にはできないけど、だけど、もっと前向きな気持ちでいないとダメだよね。


 少しだけど、そうやって前向きになることができた。

 リコリスのおかげだ。


「ありがとう、リコリス」

「ふふん、お礼は甘くてミルクたっぷりのクッキーでいいわ!」

「あはは。うん、今度買ってくるよ」


 僕とリコリスは一緒に笑い……

 その上で、月が静かに輝いていた。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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