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298話 簒奪

「追い落とす、って……」


 とんでもない話が飛び出してきた。


 最初は、聞き間違いかと思うけど、


「父を蹴り落として、私が領主の座につきたいのだ」


 改めて、そんなことを言われてしまう。


 まともそうな人に見えて、その裏で、簒奪を考えていたなんて……

 なんて人だ。

 このことは、すぐに報告をして……


 って、待てよ?


 驚きのあまり短絡的な思考になりそうだったけど、よくよく考えてみるとおかしい。

 出会ったばかりの僕達に、そんなことを話すわけがない。


 普通の人なら、悪事に加担するかどうか、時間をかけて見極めるものだ。

 強いから、という理由で協力を求めるほど、アルベルトは短慮ではないだろう。


「……なにか事情があるんですか?」


 ひとまず話を聞いてみよう。

 ソフィアも賛成らしく、口を挟まない。


「ありがとう。きちんと話を聞いてもらえて、嬉しいよ」

「請けるかどうか、それは未定です。ちゃんと話を聞いてからです」

「もちろん、それでいいさ」


 そして、アルベルトは事情を語る。


 この街……レノグレイドは、銀鉱山で栄えているらしい。

 銀を採掘して、輸出。

 あるいは街で加工して、他所へ売る。


 街の人はそうやって生計を立ててきた。

 しかし最近、その構図にほころびが生じてきたという。


「流行病が発生してね。多くの人が病に倒れてしまったんだ」

「そんなことが……」

「幸いというべきか、致死性は低い。高熱は出るものの、一週間くらい寝ていれば治るんだ。ただ、感染力が高く、有効な治療法も確立できていないため、うまく対処することができなくてね……情けない話だ」


 そう語るアルベルトは、自分の力不足を心の底から嘆いているみたいだ。


「この非常時にするべきことは、治療と感染拡大の防止の徹底だ。感染してしまった者は、最悪の事態にならないようにしっかりと治療して、仕事を休み、感染が拡大しなように隔離しないといけない。いけないのだけど……」


 アルベルトは苦い顔に。


「父は……領主は、それを許さなかった」


 鉱石の採掘がストップすれば、収入がストップする。

 一時的ではあるものの、街の財源を失うことになる。


「父は言ったよ。このような病など恐れることはない、今まで通り、いつも通りの日常を過ごすことを命じる……と」

「それは……」


 わからない話じゃない。

 経済がストップしたら、やがて、街が崩壊してしまう。

 それを避けるために、必要以上の制限はかけない。


 理解できない話じゃないけど……

 だからといって、まったく制限をかけないのはいかがなものか?

 そんなことをしたら病は拡大する一方だ。

 収束は遠ざかり、余計に経済にダメージを受けてしまう。


 制限をかけつつ、経済も回していく。

 そのバランスをうまく取ることが大事だ。


「それどころか、財源が減ったからと、税を上げると言い出した」

「えぇ……」

「多少の熱なら問題ない、鉱山に出ろ、とも言った」

「えぇぇぇ……」


 領主の発言の方が問題だらけだ。


「前々から、色々と怪しいところはあったのだけど……ここに来て、利己的な思想が目に見えて現れるようになってね。このままでは、街が破滅するか……あるいは、父が破滅するだろう」

「なるほど」


 そうなる前に領主の座から蹴落としてしまう、というわけか。


 アルベルトの考えは過激なものだけど……

 時間がない今、他に有効な手はないだろう。


 この状況が長引けば長引くほど、人々と街にダメージがいくのだから。


「このまま、街の治世を父に任せておくわけにはいかない。だからこそ、荒々しい手段ではあるが、父を追い落とすことにした」

「なる、ほど……」

「どうだろう? 私に協力してくれないだろうか?」

「……少し考えさせてくれませんか?」


 今は、そう答えるのが精一杯だった。

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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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