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295話 一目惚れ

「……へ?」


 あまりにも突然のことに、ソフィアは目を丸くしてしまう。

 さすがに、手の甲にキスをされると思っていなかったらしく、されるがままだ。


 一方、相手の男性はソフィアの手を握ったままだ。

 その状態で熱く語る。


「あなたがかの剣聖か。その実力はもちろん、それだけじゃなくて、とても美しい。まるで一流の美術家が描いた絵画のよう……いや、それ以上だ。神が作った奇跡としか思えない」

「え? あ、はあ……」


 とんでもない口説き文句だけど、ちょっと遠回しな言い方のせいか、口説かれているという実感がないらしい。

 ソフィアは生返事を返してしまう。


「そう……あなたは、女神。地上に降臨した女神そのものだ。この運命的な出会いに、全ての人々に感謝を捧げたい」

「えっと……」

「魔物に襲われた時は覚悟をしたが……なるほど。このような出会いがあるのならば、逆に感謝しなくてはならないな。女神と出会うきっかけをくれた魔物にも感謝を」

「あのー……」


 これはどうしたら?


 そう困った様子で、ソフィアがこちらを見て。


「あっ」


 ソフィアの困り顔を見て、ようやく我に返る。

 冷静に解説していないで、やるべきことがあろうだろう、僕!


「だ、大丈夫ですか!?」


 慌ててソフィアと男性の間に割り込んだ。


 無理に引き離したら不興を買うかもしれないと思い……

 慌てているフリをして、二人を引き離した。


「む、君は……?」


 そこでようやく僕の存在に気がついたらしく、男性は不思議そうな顔に。


 それから、護衛の兵士に耳打ちされて、納得顔になる。


「おお、そうか! 剣聖殿と一緒に助けてくれたのか。なるほど、なるほど。君にも感謝しなければいけないな。ありがとう」

「え? あ……はい。どういたしまして」


 邪魔をするな、とか。

 私と彼女の間に立つな、とか。


 そんなことを言われると思っていたけど、ぜんぜん違う。

 純粋に僕に感謝しているみたいだ。


 これで、実は違うことを考えていた、となったら、この人は相当な役者だ。


「剣聖殿に、将来有望な少年……うむ。このような出会いがあるなんて、今日はとても素晴らしい日だ。我が領の記念日にしたいな」

「えっと……」


 やっぱり、この人はとても偉い人だ。

 貴族であることは確定。

 それと、今のセリフから考えると、どこかの領主でもありそうだ。

 あるいは、その関係者。


「色々と話したいことはあると思うけど……思いますけど、まずは、ここを離れませんか? また、魔物に襲われないとも限らないので」

「おお、そうだったな。それもそうだ。それで……」

「はい、僕達も一緒に行きます」


 いいよね? とソフィアを見ると、迷う間があってから、小さく頷いた。

 いきなり口説かれて困っているのだろう。


「ただ、連れがいて……」

「ふーん、イケメンね。でも、この超超超プリティかわいいガールリコリスちゃんには敵わないわねー」

「おとーさん?」

「オンッ」

「ほう。リコリスに獣人の幼子に銀狼……これはまた、珍しい」


 男性の目が輝いた。

 ただ、悪巧みをしているという感じはしない。

 どちらかというと、正義のヒーローを目の前にしたような子供のような感じだ。


「この子達も一緒でいいなら」

「うむ、うむ。もちろんだ。その者達は、二人にとって大事な存在なのだろう? ならば、それを拒むような恥はせぬ。ぜひ、歓待をさせてほしい」


 ものすごく話がわかる人だ。


 ちょっと変なところはあるけど……

 でも、実は良い人なのかな?


「それと……招くと言っておいてすまないのだが、護衛を頼めないだろうか? ここは、思っていたよりも凶悪な魔物が多くてね。我が兵士達を信頼していないわけではないのだが、安全には安全を重ねておきたい。もちろん、相応の謝礼は払おう」

「はい、構いません」

「うむ、助かる。ではすまないが、頼んだ。ああ、そうそう。そちらのレディ達と子狼は、私の馬車に乗るといい。まだしばらく歩くことになるから、その方がいいだろう」

「あ、ありがとうございます」


 自分の馬車に乗せてくれるなんて……

 この人、変わっているだけで、ものすごく良い人?


 どんどん評価が上昇していく。

 でも……


「……」

「どうしたのですか、フェイト?」


 とあることを思い返して、ついつい、面白くない顔をしてしまう。

 それを見たソフィアは不思議そうな顔に。


「ううん、なんでもないよ」


 この人は、ソフィアの手の甲にキスをした。

 そのことがもやっとして……

 ついつい嫉妬してしまう僕だった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] フェイトにもそういう気持ちがあることに少しホッとした私。
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