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293話 旅を再開して

 翌朝。


 水神がいなくなったことで、綺麗な青空が一面に広がっていた。

 温かい陽の光が降り注いで、街全体が輝いている。


 うん。

 これなら川を渡る船も出ているだろう。


「よかった、街が元通りになって。これで旅を再開できるよ」

「っていうか」


 リコリスが口を開く。


「あたしらなら、嵐の中でも、どうにかして川を超えることができたんじゃない? 無理して水神を倒すことなかったんじゃない?」

「それは……」


 リコリスの言うことは、たぶん、正しいと思う。


 風の足場なんてものを作れるから……

 僕やソフィアがアイシャとスノウを抱えれば、あの荒れ狂う川も超えられたはずだ。


 はずだけど……


「でも、嫌なんだ」

「なにがよ?」

「困っている人がいるのに、それを見なかったことにするのは……嫌なんだ」


 助けることができるのなら、助けたい。

 助けられないとしても、自分にできることを探したい。

 そう思うのは、わがままだろうか?


「フェイトは、それでいいと思いますよ」


 振り返ると、ソフィアが優しい顔をしていた。


「フェイトは優しいところが魅力的で……それと、それが力にもなっていると思うんです。誰かのために……そう願うことで、力が湧いてきていると思うんです」

「そう、かな?」

「そうですよ。誰かのために動く時こそ、フェイトは、一番の力を発揮していましたから」


 ちょっと照れくさいけど……

 そう言ってもらえると嬉しい。


「まったく、仕方ないわねー。反対はしないけど、それに突き合わされるあたしの身にもなってほしいわ」

「リコリス……つんでれ?」

「オフゥ」

「なんでそうなるのよ!? ってか、アイシャにそんな言葉教えたの、どっち!?」

「え? いや、僕はそんなことは……」

「私も、そんな言葉を教えたことはないのですが……」


 僕とソフィアは、揃って首を傾げた。


 たぶん……

 宿に泊まっていた時、他の客の話を聞いて覚えたんだろう。


 子供って不思議だ。

 親の知らないところで、どんどん成長する。


 これから先、どんな風に成長していくんだろう?

 どんなことを覚えていくんだろう?


 それを知りたい。

 知りたいからこそ、彼女を狙う黎明の同盟をなんとかしないといけない。


 それと……

 誰かが涙を流すのを止めたいから、っていう理由もある。


 感謝されなくていい。

 自己満足でもいい。


 ただ、そうしたいと願うから、そうするだけだ。


「……もし」


 声をかけられて振り返ると、宿にいたおじいさん……ヘミングさんが。


「……ありがとう」

「え?」

「あんた達に水神様の話をして……それから、ピタリと嵐が収まった。詳しいところはわからぬが、なんとかしてくれたのじゃろう?」

「えっと、それは……」

「なにも言わなくてもよい。ただ、お礼を言っておきたかったのじゃ。本当に……ありがとう」

「……はい」


 僕が戦うことで、こうして、誰かの涙を止めることができる。

 なら、戦うだけだ。


「お主ら、北へ向かうのか?」

「はい。王都を目指しているんです」

「なら、これを持っていくがよい」


 手の平サイズのカードを渡された。


「王都は警備が厳しいから、入るのも一苦労じゃ。ただ、この通行証があれば、問題なく入れるじゃろう」

「ありがとうございます」

「せめてもの礼じゃ。ではな」


 ヘミングさんはにこりと笑い、立ち去っていった。


 それから、ソフィアがリコリスに、ニヤリと笑う。


「人助けをすることで、こうして得られることもあるんですよ?」

「むぐ」

「まあ、フェイトの場合、対価を求めてのことではありませんが……でも、そういうところが大好きです」

「あ、ありがとう。僕も、ソフィアのことが……」

「はいはい、隙あればイチャつこうとするんじゃないの。ほら、とっとと行くわよ」


 リコリスに促されて、船着き場へ向かう。


 こうして僕達は、色々とあったアクアレイトを後にして……

 王都に向けて、さらに旅を続けるのだった。


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] この作品もアニメ化したらリコリス、大暴れしそうな気がするなあ。 「この絶世の美少女リコリスちゃん参上ね!」とか、なんか色々とやかましいことになるからやっぱいいや・・・。 リコリス「ちょっと…
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