290話 水辺の決戦
「胴体をちまちまと攻撃してもダメ。あいつの弱点は頭よ!」
リコリスは断定するような口調で、そう言った。
やけに自信たっぷりだ。
どこで、そんな知識を仕入れたのだろう?
「なんでそんなことを知っているの?」
「ふっふっふ、このリコリスちゃんに不可能はないわ!」
答えになっていないからね?
「ってか、大抵の生き物は、頭を潰されれば死ぬでしょ。あいつも例外じゃないわよ、たぶん」
「それはまあ、そうだけど……」
深い知識を持っているだけじゃなくて、ごくごく当たり前の話をしているだけだった。
すごいかも、と一瞬でも感心した僕がバカだったかもしれない。
「でも、さすがに攻撃が届かないよ」
「大丈夫。あたしが足場を作るわ」
「足場?」
「説明している時間がもったいないから、臨機応変よ! 即興で合わせて!」
「無茶を言うね!」
でも……
リコリスは無茶を言うことは多々あるけど、無謀を口にすることはない。
僕ならできる、と信じてくれているからこその発言だ。
なら、それに応えてみせないと!
「いくわよ!」
「いつでも!」
「んー……えいっ!」
リコリスの掛け声と共に、風を圧縮して作られた、空気の板が宙に並べられた。
それらは螺旋階段のように上に伸びて、水神の頭部へ繋がる道を作る。
「このっ!」
風の板を足場にして、跳躍。
さらに跳躍。
再び跳躍。
何度も何度も跳んで、空を駆け上がっていく。
「こざかしイ!」
水神がぐるっと回転して、風の板を吹き飛ばす。
でも、慌てる必要はない。
「ふふーん、これくらい、天才美少女魔法少女リコリスちゃんには、なんの障害にならないわね!」
すぐに新しい風の板が作り出された。
少女って、二度言っているからね?
心の中で律儀にツッコミを入れつつ、さらに駆け上がる。
「ぐっ……我に近づくナ!」
怒り……そして、焦る水神は、再び体をくねらせて風の板を破壊した。
ついでに僕も吹き飛ばそうとするけど……
そんな攻撃に当たってなんかやらない。
ソフィアの方が万倍も速い。
問題なく避けて……
そして、間髪入れず生み出された風の板を踏み込んでいく。
水神の頭部まであと少し!
「人間などニ……ふざけるナ!!!」
「っ!?」
怒りの咆哮を響かせた水神は、上体を反り返らせた。
力を溜めている様子で体を震わせて……
「ガアアアアアァッ!!!」
二度目の咆哮と共に、口から水を吐き出してきた。
大量の水を極限まで圧縮しているらしく、その威力に大気が震える。
キィイイインと耳鳴りがする。
極大の破壊力を持つ水撃が僕とリコリスに迫り……
「リコリス!」
「あ、うん!?」
とあるお願いをして。
……その直後、水撃が襲いかかってきた。