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285話 水神

 ヘミングさん曰く……


 アクアレイトは歴史の長い街で、かつてはただの集落だったらしい。

 そこに長い時間をかけて人が集まり、街が発展して……

 そして、今の形になった。


 昔は治水技術も低く、度々、洪水などの被害に悩まされていたらしい。

 川沿いに街を作ると、その悩みは常につきまとう。


 ある時、占い師が街を訪れたらしい。

 そして、川に住む水神に生贄を捧げることで、洪水などの被害をなくすことができる、というアドバイスを授かったとか。


 半信半疑ではあったものの、しかし、その言葉を無視できないほど被害は拡大していた。

 当時の街の人々は生贄を捧げた。

 すると、今までが嘘のように、荒れた川が穏やかになったという。


 以来、定期的に生贄が捧げられるように。


「……さすがに、今の時代、生贄を捧げるわけにはいかん。いつからか詳細はわからぬが、生贄の代わりに水神様を崇める祭りが開催されるようになった」


 ヘミングさんの話は興味深い。


 アクアレイトでなにが起きているのか、知ることができるかもしれない、というのもあるけど……

 単純に、物語としておもしろい。

 こういう、過去を知る話は楽しいんだよね。


「しかし、祭りなどでは水神様は満たされぬ。怒りが蓄積されて……そして今、儂らに襲いかかったのじゃろう」

「まったく……ヘミングのじいさんは、ことあるごとにその話を持ち出す。そんなおとぎ話、誰が信じるっていうんだい?」

「おとぎ話などではない! 厳然とした事実じゃ!」

「はいはい、いいから、これ以上雨風が強くなる前に家に帰りな。それで、避難の準備をしな」

「まったく、最近の若い者は……」


 ぶつくさと文句を言いつつ、ヘミングさんは宿を出た。

 強風と雨に負けず、家に向かう。

 たくましい人だ。


「あの……避難っていうのは?」

「この街から避難するのさ」

「え」

「見ての通り、この街はもう終わりだよ。あと数日で川が完全に氾濫して、水に飲み込まれてしまう。そうなる前に、避難できる人は避難するのさ」

「でも、さっき女将さんは……」

「あたしは、ここに残るよ。行くところもないし……これでも、故郷だからね」


 とても寂しい顔で笑う。

 そんな顔、見たくないのに……


「ま、そういうわけで、あんた達も早く避難した方がいいよ。泊まりたい、っていうなら、部屋はそのまま使ってくれて構わないけどね」


 女将はひらひらと手を振り、奥に消えた。

 たぶん、夕飯の仕込みをするんだろう。


「なんか……すごい大変な時期にやってきちゃったね」

「そうですね……まさか、街が一つ、消えようとしているなんて」


 まったくの予想外だ。


「国は、なんとかしてくれないのかな?」

「たぶん、難しいでしょうね。他所の国に攻め込まれたとかなら、軍を派遣してくれると思いますが……相手が自然災害となると、どうしようもありません。悔しいですけど、こういう時、人は無力です」

「……」


 人は無力。

 自然を相手に立ち向かえるわけがない。


 それはその通りだ。

 ソフィアの言うことはなにも間違っていない。


 間違っていないのだけど……


「本当に自然災害なのかな?」

「え?」


 ヘミングさんの話を聞いて、ふと疑問に思ったことがある。


「雨が二週間も降り続くなんて、普通に考えてありえないよ」

「もしかして……ヘミングさんが言っていた、水神が関与していると?」

「可能性はあると思うんだ」


 伝承として伝えられているのなら、過去、本当に実在した可能性もあるはず。

 ただのおとぎ話として切って捨てるのは、ちょっと短慮な気がした。


「ですが、水神が実在したとしても……生贄を捧げるわけには」

「うん、そんなことは絶対にできないよ」


 街を救うために誰かを殺す。

 そんなことはしたくない。


 それは、ある意味で黎明の同盟と同じことだ。

 犠牲を容認して掴んだ未来に価値なんてあるのだろうか?


 また、容認していたら、いつか枷が外れてしまう。

 もっと大きな犠牲も容認するようになってしまうかもしれない。

 そうなったら、人として終わりだ。


 誰かを大切にできないのなら、誰も大切にできない。


「そもそもの話……昔、なんで嵐が起きたのかな?」

「え? それは……」

「自然災害を神の怒りに見立てて、生贄を捧げるっていう話はわりとよくあることだけど……でも、今回の場合は都合がよすぎると思うんだよね」


 本当に自然災害なら、生贄を捧げてもなにも変わらない。

 すぐに嵐が止むなんてこと、絶対にありえない。


「今も昔も、嵐は作為的に起こされたもの……って考えると、納得できる」

「しかし、そのようなことができるなんて……まさか」

「うん。その水神こそが犯人じゃないかな、って思うんだ」

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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