279話 初めてのケンカ
翌朝。
「……」
「……」
カチャカチャと食器の音だけが響いていた。
昨日までなら、おいしいごはんを食べながら色々な話をしていたんだけど……
今日は無言。
ひたすらに無言。
その原因は僕達にある。
「……ふん」
「……ふん」
ソフィアと目が合い、すぐに逸らした。
それは向こうも同じ。
不機嫌そうに鼻を鳴らしつつ、無視をする。
その態度はなんだろう?
ひどくないかな?
「え、えっと……」
僕達のケンカに、クローディアさんはあわあわとして……
「うぅ……」
「クゥーン……」
アイシャとスノウは元気がない。
二人にこんな顔をさせてしまうなんて、ものすごく心が痛い。
今すぐに笑顔になってほしい。
なってほしいんだけど……
「……ふん」
「……ふん」
ソフィアと仲直りをする?
彼女の固い思考が原因なのに?
アイシャとスノウを王都に連れていくか。
それとも、獣人の里で匿ってもらうか。
どちらが正しいわけじゃなくて、どちらを選んでも正解なのだと思う。
それなのにソフィアは自分の意見が正しいと信じて疑わず、強引に押し通そうとした。
そんな身勝手、許せるわけないじゃないか。
僕から謝るなんてこと、絶対にしないぞ。
「……やれやれ」
無言の食事を続ける中、リコリスの呆れたようなため息が響いた。
――――――――――
その後もケンカは続いて……
「……ふん」
「……ふん」
顔を合わせれば、それぞれ顔をふいっと背けて。
「……ふん」
「……ふん」
他の食事の時間も無言。
「……ふん」
「……ふん」
一緒に過ごす時間もなくなり、一人の時間が増えた。
――――――――――
……ソフィアとケンカをして、三日後。
「はあ……こんなことしてる場合じゃないのに」
割り当てられた部屋のベッドに寝て、ぼーっと天井を眺めていた。
一刻も早く王都に行って、黎明の同盟をなんとかしないといけない。
いけないのに、ここを動くことができない。
ソフィアとのケンカが終わらない。
「ソフィア、本当に意地っ張りなんだから……ちょっとくらい自分の意見を曲げてもいいのに」
「それ、フェイトが言う?」
「リコリス?」
いつの間にかリコリスが。
体を起こす。
「どうしたの?」
「ソフィアが意地っ張りって言うけど、フェイトは? まるでソフィアの話を聞こうとしない、意見を認めようとしてないじゃない」
「そ、それは……」
痛いところを突かれてしまい、言葉に詰まってしまう。
「そうかもしれない、けど……でも、今はケンカなんてしている場合じゃないよ。すぐに王都に行って、黎明の同盟をなんとかしないと……」
「そんなことは二の次じゃない?」
「え?」
黎明の同盟を放置したら、どんな災厄が訪れるか。
そのことはリコリスはわかっているはずなのに、どうしてそんなことを言うんだろう?
「今は、もっと大事にしなくちゃいけないことがあるでしょ」
「……ソフィアのこと?」
「違うわよ。はー……まったく、こういうところで人生経験が足りてないのが露見するわね。ホント、あたしがいないとダメなんだから」
「……なにが足りていないのさ」
僕の意見が間違っているかのような言い方に、ついついむすっとしてしまう。
でも、リコリスの態度は変わらない。
むしろ、より呆れた様子でジト目を向けてきた。
「他に考えるべきこと、優先することがあるでしょ」
「だから、それは……」
「一番に考えないといけないのは、アイシャとスノウのことじゃないの?」
「っ!?」




