273話 怒るに怒れない
アイシャとスノウが消えた。
話によると、二人は空き家で待機していたのだけど……
ちょっと目を離した隙に消えてしまったらしい。
自分達で移動したのか?
それとも、誰かにさらわれたのか?
後者だろうか?
その可能性は考えたくないけど、でも、レナの件があるから疑り深くなってしまう。
なんて慌てていたら……
「姫様と神獣様を発見しました!」
ほどなくして朗報が飛び込んできた。
やけに早い。
「二人はどこに?」
「それが、その……」
報告に来た獣人は、なにやらとても困った顔をしていた。
――――――――――
「すぅ……すぅ、すぅ……」
「スピー……スピー……」
村の外れにある大きな木。
その木陰で、アイシャとスノウが抱きしめ合うようにして昼寝をしていた。
木の葉の隙間から差し込む陽光。
それと、そっと吹く穏やかな風。
それらがとても心地良い様子で、二人は幸せそうな顔をしている。
「散歩をして、そのままここで昼寝をしてしまったみたいですね」
やれやれ、とソフィアがため息をこぼす。
ただ、怒っているわけじゃない。
やんちゃをして泥まみれになった子供を見て、仕方ないわね、と苦笑する母親そのもので……
とても優しい顔をしていた。
「どうしようか?」
「もう少し寝かせてあげましょう。起こすのは、なんだかかわいそうです」
「そうだね」
幸せそうに昼寝をするアイシャとスノウの隣に座り、僕とソフィアも穏やかな時間を過ごした。
――――――――――
その後……
一時間くらいしたところでアイシャとスノウが起きた。
二人を連れて、改めて村長の家へ。
そこで今後のことを話し合う。
「アイシャ、スノウ。二人の力を借りて、ここに結界を作りたいんだ。お願いしてもいいかな?」
「わたし……そんなことできるの?」
「うん、できるよ」
「……」
アイシャは不安そうだ。
それも仕方ない。
膨大な魔力を持っていることは判明したものの、結界の構築なんてしたことはない。
やっていないことをやってほしいとお願いされて、不安を覚えない人なんていない。
「大丈夫よ」
自信たっぷりに言うリコリスだ。
「あたし、結界の構築にはそれなりの知識と経験があるの。あたしがいれば成功間違いなしね!」
「リコリスって、なんでもできるんだね」
「ふふん、万能無敵妖精リコリスちゃんって呼んでもいいのよ?」
ちょっと長いかな。
「結界はすぐに構築できるのですか?」
「んー……さすがに準備と軽い練習が必要ね。三日は欲しいわね」
「三日ですか……」
ソフィアは渋い顔に。
なにしろ、少し前にレナがやってきたばかりだ。
三日も守りきれるか、難しいだろう。
でも、結界を構築すれば里の安全は確保できる。
絶対安全って言い切れないけど……
今よりはだいぶマシになるだろう。
そのためにどうすればいいか?
「うーん」
みんなで考えて……
ちょっとしたアイディアを閃いた。
「こういうのはどうかな?」




