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260話 愚かな行い

「聖剣が……」


 僕が知っている聖剣は、ソフィアが持つエクスカリバーだけ。


 邪悪を祓う剣。

 闇を切り裂く希望の光。


 聖剣エクスカリバー。


「聖剣は、獣人がありったけの力を込めて作った最終兵器のようなもの。でも、試作品っぽいところもあって、量産はできなかったんだ。作ることができたのは、三本だけ、って聞いているよ」

「そのうちの一本が、ソフィアが持っているエクスカリバー?」

「そういうこと。残りの二本は、ボクも知らないんだよねー。って、話が逸れた。で……聖剣の代わりの、ちょっとランクが落ちる武器を量産したり、あるいは結界を展開するとかして、獣人は色々と協力したんだ。おかげで、人間の被害は減ってめでたしめでたし」


 レナはにっこりと笑う。


 でも、次の瞬間には、その笑みは消えた。


「って、そうそう、うまくはいかなかったんだよねー」


 レナは、やれやれといった様子で肩をすくめてみせた。

 その表情には、ハッキリとした怒りと憎しみが現れている。


「一部の人間は、こう考えた。獣人を利用すれば、もっと強くなれるのではないか? もっともっと豊かな生活を手に入れられるのではないか?」

「それは……」

「人間って、ホント欲深くてどうしようもない生き物だよねー。それって昔から変わってなくて、ダメダメすぎるよね。そう思わない?」

「……」


 返す言葉がない。


 人間の全部がそうだなんて言うつもりはないけど……

 でも、世の中には色々な人がいる。

 良い人がいれば、悪い人もいる。


 だから……

 レナの言葉には、大きな説得力があった。


「で、色々な人間が暗躍を始めて、暴走をして……ついには、禁忌に手を染めたんだ」

「禁忌っていうのは……?」

「神獣の子供に手を出した」


 そう語るレナは、とても冷たい顔をしていた。


 感情の一切を削ぎ落としてしまったかのようで……

 思わず背中が震えてしまう。


「当時の人間は、神獣の子供を拉致して、生贄にしたんだ」

「そんなことが……」

「神獣の子供の力を利用した、一種の結界を展開したの。その結界内では常に豊作になって、幸せが訪れて、災厄が退けられる」


 それは、とても理想的な話だ。

 誰もが望んでやまないものだろう。


 でも……


 そのために誰かを犠牲にするなんて、絶対に間違っている。


 レナも同じ想いを抱いているらしく、拳を強く握りしめていた。


「その結界は色々な場所にあるんだけど……その一つが、ブルーアイランド」

「えっ」

「ボク達は、あえて魔剣をばらまいて街の空気を壊して、封印を解いたんだ」

「……ちょっとまって。なら、どうしてスノウがおかしくなったの?」

「封印が解かれると同時に、生贄にされた神獣の子供の恨み憎しみがあふれたんだよ。それが今代の神獣に乗り移り……っていう感じ」


 凄絶な話だった。

 聞いているだけで胸が痛くなる。


 それでも逃げるわけにはいかない。


 スノウの家族として。

 一人の人間として。

 きちんと真実と向き合わないといけない。


「話は戻るけど……子供をさらわれて怒らない親はいないよね? 神獣は怒った。それはもう激怒した。人間達は、あれこれと口八丁で言い含めるつもりだったらしいけど、そんなことはできなくて……まあ、戦争が起きたよね」

「当然の流れ……だよね」

「血で血を洗うような泥沼の戦争になって……最終的に神獣が負けたんだ。その力は圧倒的だったけど、人間達は聖剣を持ち出していたから、それで追い込まれちゃったみたい」

「……」

「かくして、復讐の鬼となった神獣は封印されて、人間は平和を勝ち取りました……めでたしめでたし」


 レナは茶化すように言うけど、ぜんぜんめでたくない。

 むしろ、バッドエンドでは?


「そんなことがあったなんて、ぜんぜん知らなかった……」

「まー、仕方ないよ。獣人の神様の子供を殺しました、とか言えないからね。そこら辺の歴史は、都合のいいように捏造されているよ」

「……もしかして」


 ふと、とある可能性に思い至る。


「黎明の同盟は、かつての神獣の関係者?」

「正解」


 レナはニヤリと笑い、僕の言葉を肯定するのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] そういう背景があったのか。 しかし、レナやはり貴方のやることは・・・。 それに人間は全て愚かではない。もっともそれを受け入れられるかはレナ次第なのだが。
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