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26話 調査開始

 まずは、現時点で判明している情報をギルドで受け取る。


 犯人の正体は不明。

 手がかりゼロ。

 目撃者もゼロ。


 気がつけば、被害者が殺されているという状況。

 物音がしたという話はないし、争う声も聞いていない。


 被害者に共通点はなし。

 その他、犯人に繋がる情報もない。


「これはまた……」

「犯人を探すということは、雲をつかむような話なのかもしれませんね」


 宿の食堂で情報を整理した僕とソフィアは、共に悩ましげな顔をした。


「情報がここまでないと、どこから手をつけていいものか……こうなると、本当に殺人鬼がいるのかさえ怪しく思えてしまいますね。死神の仕業と言われたら納得してしまいそうです」

「でも、犯人は必ずいる。絶対に捕まえないと」

「はい、そうですね。さすが、フェイト。正義感の強いあなたなら、そう言うと思っていました」

「まあ、探す方法はまったくわからないんだけどね。目撃者はゼロで、誰にも気づかれることなく事件を起こしている。それに、被害者の共通点もなしで……あれ?」


 共通点はないと思っていたのだけど、あった。

 よくよく見てみることで、そのことに気がついた。


「どうしたのですか?」

「共通点……見つけたかも」

「え!? どういうことですか?」

「ただの偶然かもしれないんだけど、被害者は……全員、僕の顔見知りだよ」

「えっ」

「最初の被害者の冒険者は、奴隷だった頃、何度か情報交換をしたことがあるんだ。二人目の被害者のギルド職員も同じ感じで、何度か話をしたことがある。三人目の被害者の憲兵も同じく、話をしたことがあるよ。シグルド達は、よく酔っ払って事件を起こしていたから、その仲裁として話をしたことが……」


 顔見知り程度ではあるのだけど、犠牲者は、全員、僕と関わりがある。

 一人なら偶然で済ませることができただろうけど、三人となると……


「これは、一つの手がかりになるかもしれませんね」

「うん。でも……」

「下手をしたら、フェイトが疑われてしまいます」


 容疑者ゼロの状態で、こんな情報が浮上したら、どうなるか?

 さすがに犯人扱いされることはないだろうけど、参考人として憲兵に話を聞かれることはあるかもしれない。

 あとは、監視されるとか……


「うーん……なんか、変な方向に動いてきたな」


 うまく言葉にできないのだけど、イヤな予感がした。




――――――――――




 連続殺人事件の調査を始めて、三日目。

 進展は芳しくない。


 一方で、僕と被害者の間に接点があるという話が、どこからともなく浮上してきた。

 誰がそんな話をしたのか?

 調べてみたけれど、手がかりを掴むことはできず……


 ついには、憲兵に事情聴取をされるハメに。


「よし、事情聴取はこれで終わりだ。すまないな、わざわざ足を運んでもらって」

「いえ、気にしていませんから。僕も事件を解決したいと思っていますから、できることがあるのなら、なんでも協力しますよ」

「実のところ、最初はちと疑ってたんだが……あんたが犯人なんてこと、ありえないな。あんたは、あんな事件を起こせるような人間じゃない。俺が保証する。仲間達にもそう伝えておくよ」

「ありがとうございます。でも、そんなに簡単に信じていいんですか? いや、僕が言うのもアレな話ですけど……」

「俺は、これでも憲兵を十年やっててな。色々なヤツと接してきたから、善人と悪人の区別はつく。人を見る目はあるつもりだ。あんたは……とびきりの善人だよ」

「そう言ってもらえると、うれしいです。信じてくれて、ありがとうございます」

「俺らも全力を尽くすから、あんたも力を貸してくれると助かる」

「はい、もちろん。犯人を絶対に捕まえましょう」


 気の良い憲兵と別れの挨拶をして、僕は詰め所を後にした。


「フェイト!」


 外で待っていたらしく、すぐにソフィアが駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか? ひどいことをされていませんか? 疲れていませんか? 精神的な疲労は? お腹は空いていませんか? 睡眠不足になっていませんか?」

「いや、うん、大丈夫」


 ソフィアは、ものすごく心配性だなあ。

 なんとなく、故郷にいるであろう母さんを思い出した。


 母さん、元気にしているだろうか?

 そのうち故郷に帰って、元気なところを見せないと。


「よかった……憲兵隊がフェイトの事情聴取とすると聞いて、しかも、フェイトがそれに素直に応じて……でも、私は外で待機。どうなってしまうのかと、心配で心配で心臓が潰れてしまうかと思いました」

「心配してくれてありがとう、それと、ごめん。でも、僕は大丈夫だから」

「本当に?」

「本当」


 事実、憲兵はさきほどの人を始め、皆、紳士的だ。

 噂を元に事情聴取をしたものの、僕が犯人とは思っていない様子だった。

 ひとまず話を聞いてみよう、という程度なのだろう。


「少しでも手がかりがほしいから、念の為、僕に話を聞いたみたい。他にも、同じような人はいくらかいたよ」

「そうなのですね……よかった、何事もなくて」

「うん。それと、事情聴取に応じた甲斐はあったよ?」

「どういうことですか?」

「ちょっと気になる情報を聞くことができたんだ」


 憲兵隊によると……


 僕のことではなくて、もう一つ、別の共通点を発見したらしい。

 その共通点というのは、犯行時間。

 犯行は、全て昼に行われていたという。


 些細なポイントかもしれないが、それでも、手がかりは手がかり。

 この手がかりを元に、さらに精度の高い情報を得てみせると、憲兵は意気込んでいた。


「犯行時間ですか……それは確かに大事ですね。昼というのも気になります。普通は、昼から堂々と犯行に及ばないと思うのですが」

「うん。だから、昼でないとダメな理由があるのかもしれない」

「昼でないといけない理由……」


 少し考えて、


「……ダメですね。私には、その理由が思いつきません」


 答えに辿り着くことはできず、ソフィアは難しい顔に。


「フェイトは、なにかわかりましたか?」

「うん。多分だけど、犯行方法はわかったよ」

「えっ、本当ですか!? 私でも、まだなにもわからないのですが……」

「たまたま、アレのことを知っているから」

「アレ?」

「ちょっとした魔道具のこと」


 この情報については、まだ公にすることはできない。

 確たる証拠がないため、迂闊なことを口にしたら、こちらが不利になる。


「僕の想像が正しいのなら、犯人も、たぶん、わかる」

「す、すごいですね……フェイトは、身体能力だけではなくて、頭の回転も早いのですね」

「うーん、どうだろう? ただ、奴隷だった頃はあれこれと雑用を押しつけられていたし、交渉も全て担当していたから、考えることは得意な方かな?」


 奴隷時代の経験が活きている、ということなのだろうか?


「ただ、証拠がない。あと、犯人の次のターゲットもわからない。ついでに言うと、動機もわからない」

「わからないことだらけですね。それらを一気に解決する方法は?」

「あるよ」

「……実際に犯行現場に立ち会う、ですか?」

「正解。ソフィアも頭の回転が早いね」

「犯行現場を見つけて、そして犯人を捕まえる。一番、確かな方法ですが……とはいえ、どのようにして次の事件を突き止めるか。あと、被害者を増やすわけにはいかないので、先手を打つ……罠などをしかけておく必要もありますね」

「そこが問題なんだよね。罠とかはどうとでもなると思うんだけど、次のターゲットをどうやって突き止めればいいのか」

「難しいですね」


 「うーん」と二人で頭を悩ませる。


 一人目は冒険者、二人目は冒険者ギルドの職員、三人目は憲兵。

 少しずつではあるけれど、順々に、社会的地位の高い被害者が選ばれている。


 この法則が適用されるのならば……

 最終的に狙われるのは、貴族だろうか?


「……だとしたら、過程を飛ばさせるようにして、狙いを絞り込ませることも可能かな?」

「なにか思いついたのですか?」

「うん、ちょっとね」


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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] もしかして、犯人あのくずども。 あ、とうとう、地獄に本当に堕ちるのね。 物語から永久退場か。
[一言] あのバカにこんな高度な犯罪ができるとは思えないよー
[一言] ・・・・・・シグルド共、とうとう外道に堕ちたか・・・・・・。
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