252話 早く起きた朝は
翌日。
いよいよ獣人の里へ向かう日が訪れた。
少し緊張しているのか、いつもより目が早く覚めてしまう。
時間的には、もう一眠りくらいできそうだけど……
「起きようかな」
二度寝して寝坊したら大変なので、少し眠いけど、もう起きることにした。
「あっ! おとーさん、おはよう!」
リビングに移動すると、アイシャとスノウがいた。
二人共、尻尾をぶんぶんと振りつつ、抱きついてくる。
「うわっ……ととと」
「あう……おとーさん、大丈夫?」
「くぅん」
「うん、大丈夫だよ」
尻もちをついてしまい、二人が悲しそうな顔に。
なんてことはないというように、僕はにっこりと笑う。
それから、二人の頭を撫でた。
「おはよう、アイシャ。スノウ」
「おはよー、おとーさん!」
「オンッ!」
朝の挨拶をして、立ち上がる。
それからキッチンを覗く。
「父さんと母さんは……まだ寝ているのかな?」
早いから仕方ないか。
「そういえば、アイシャとスノウは早起きだね」
「スノウのお散歩をしていたの」
「オフゥ」
そういえば、スノウはどことなくごきげんだ。
朝から散歩ができてうれしいのだろう。
「そっか。アイシャは偉いね」
「わたし、えらい?」
「うん。きちんとスノウの面倒を見てて、優しくしているから。すごく良いことだと思うよ」
「えへへ、お父さんに褒められちゃった」
アイシャの尻尾が、さらにブンブンと横に振れた。
パシンパシンと尻尾の先がスノウに当たっているが、特に気にしていない様子だ。
と、その時。
クキュルルルー。
なんともかわいらしい音が響いた。
アイシャが眉を垂れ下げて、お腹に手をやる。
「あぅ……お腹減った」
「くぅーん」
スノウも空腹らしく、つぶらな瞳をこちらに向ける。
「なら、すぐにごはんを作るよ。ちょっと待っててね」
「おとーさん、ごはん、作れるの?」
「うん、大丈夫。それなりに自信はあるよ」
奴隷時代、食事当番も担当していた。
失敗すると拳が飛んでくるため、それなりに上達したと思う。
「えっと……」
キッチンに立ち、さっそく朝食の準備を始めた。
――――――――――
「はい、どうぞ」
「わぁ♪」
「オンッ!」
はちみつたっぷりのパンケーキと、レモンを効かせた特製サラダ。
それと、お腹に優しいコーンスープと牛乳。
わりと上手くできた方だと思う。
その証拠に……
「はむはむはむっ、あむ!」
「ガツガツガツ!」
アイシャとスノウは夢中になってパンケーキを食べていた。
尻尾がはち切れんばかりに振られている。
うん。
うまくいったみたいだ。
「おはようございます」
「おふぁよー……ふぁあああ」
シャッキリした様子のソフィアと、まだ眠そうなリコリスがやってきた。
「あら? そのごはん……フェイトが作ったんですか?」
「うん。ソフィア達の分も用意してあるよ」
「……ありがとうございます」
なぜかソフィアは複雑そうな顔だ。
パンケーキ、嫌いなのかな?
「自分より料理が上手だから、女として複雑に思ってるのよ」
「あっ、こらリコリス! バラさないでください」
ソフィアとリコリスが追いかけっこを始めて……
「おっ、朝食はフェイトが作ってくれたのか。うまそうじゃないか」
「ありがとう。お母さん、ついつい寝過ごしちゃって……」
「あーうー」
父さん、母さん、ルーテシアもやってきた。
ルーテシアは、パンケーキに興味津々らしく、じっと見つめている。
よだれもちょっと垂れていた。
とはいえ、赤ちゃんにはちみつはダメだ。
ルーテシア用に作り直さないと。
「おはようございます」
クローディアさんも起きてきた。
みんなが揃い……
あれこれと他愛のない話をして、笑顔が広がる。
「……こんな日がいつまでも続けばいいな」
そんなことを思う、穏やかな朝だった。




