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25話 事件

 フェンリルを倒すことができたものの、あれは、やっぱり偶然だと思う。

 運が良いだけで、僕の実力は、まだまだ足りない。


 なので、ソフィアに稽古をつけてもらった。

 今は十分だと思いますが……

 とソフィアは呆れていた様子ではあるが、僕はひたすらに稽古に励んだ。


 そして、一週間。

 多少の自信を身につけることができたので、改めて、冒険者業を再開することにした。

 そして、ソフィアと一緒にギルドを訪ねたのだけど……


「連続殺人事件?」


 思わぬ話を聞かされることに。


 ギルドの受付嬢は、ほとほと困り果てた様子で説明してくれる。


「ここ最近、街を騒がせている殺人鬼の噂はご存知ですか?」

「殺人鬼? 僕は知らないけど……」


 ソフィアを見る。


「私も知らないですね。ここ最近は、フェイトの稽古に忙しかったもので」

「ごめんね」

「そこは、違う言葉がほしいです」

「……ありがとう?」

「はい、どういたしまして」

「ごほんっ」


 目の前でイチャイチャしないでくれる?

 というような感じで、受付嬢にジト目を向けられてしまう。


 僕とソフィアは顔を赤くしつつ、話の続きに耳を傾ける。


「最初の犠牲者は、とある冒険者でした。ダンジョンの攻略に挑む予定でしたが、時間になっても姿を見せない。不思議に思ったパーティーメンバーが迎えに行ったところ、宿で死体となっているところを発見されたのです」

「ふむふむ」

「次の犠牲者は、冒険者ギルドの関係者です」

「ギルドにも犠牲者が出ているのですか?」

「はい……」


 知り合いなのか、受付嬢は悲しそうな顔になる。


「こちらも似たような感じで……真面目な方で無断欠勤などしない人でした。しかし、三日連続の無断欠勤。不思議に思った上司が家を訪ねたところ、死体を発見したのです」

「確かに、似たような内容だね」

「三人目の犠牲者は、憲兵隊の一員です。その日、たまたま被害者は一人で街の見回りをしていました。通常、最低でもペアで行動することが義務付けられていますが、その日はたまたまバディが体調不良で、一人で見回りをしていたみたいです。そして……翌朝、無残な姿で発見されました」

「憲兵隊にも被害が出ているなんて……」


 ソフィアが難しい顔になるが、それもそのはずだ。


 憲兵隊は、街の治安、秩序を維持する部隊だ。

 とても仲間意識が強く、身内に手を出すような敵には容赦しない。

 徹底的な捜査が行われて、苛烈な報復をされる。


 そんな憲兵隊に手を出すようなことは、普通はしない。

 犯罪者でも迷うほどだ。


「今のところ、犠牲者はこの三人です。四人目が出る前に、なんとしても捕まえなければなりません。とはいえ、相手は正体不明の殺人鬼。情報も少ないため、誰も依頼を請けてくれず……」

「あら? その事件は、ギルドが管理しているのですか? 殺人事件となれば、憲兵隊の管轄になると思いましたが」

「もちろん、憲兵隊でも捜査は行われていますよ。ただ、どのような手を使っているのか、犯人の目撃情報がゼロで、手がかりもゼロ。このままでは、四人目の被害者が出るのは時間の問題。なので、冒険者ギルドも協力することにしたんですよ」

「なるほど、面子にこだわっている場合ではない、ということですね」


 冒険者は人々の依頼に応えて……

 憲兵隊は、治安や秩序を乱す犯罪者を捕まえる。


 そのような役割分担ではあるが、似たような部分もあるため、互いにライバル視しているところがある。

 仲良く活動することは少ないのだけど……

 今回は、そうは言っていられない、ということか。


 それほどの事件……

 心がざわざわとした。


「と、いうわけで……」


 受付嬢が極上のスマイルを浮かべた。


「スティアートさんとアスカルトさんは、今は、特に依頼は請けていませんよね? どうでしょうか? 殺人鬼の事件を解決したら、報酬は、なんと金貨四百枚です!」


 金貨四百枚といえば、一般的な人の年収に相当する。

 かなりの額だ。

 それだけ、ギルドは力を入れているのだろう。


 ただ……


「うーん」

「乗り気じゃないですか?」

「えっと……この前、フェンリルを倒して、その素材を売ったから、お金なら余るくらいに持っているんだよね」


 あの時の素材は、全部で、金貨三千枚で売れた。


 その情報を知っているらしく、受付嬢が頭を抱える。


「そういえば、そうでしたね……」

「……でも」


 事件のことを考える。

 姿の見えない殺人鬼が街のどこかに潜んでいる。


 三件、事件が起きた。

 これで終わりと考えるのは、あまりにも楽観的だろう。


 計画的なものなのか快楽目的なのか、犯人の目的はわからないけど……

 おそらく、犯人は味をしめている。

 また繰り返すだろう。

 そんな予感がした。


 四件目の事件が起きた時、その被害者が知り合いだとしたら?


 朝、いつも挨拶をしてくれる宿の店主とか。

 今話をしている受付嬢とか。


 あるいは……ソフィアとか。


 そんなことになったら、僕は、とても後悔するだろう。

 あの時、事件の解決に身を乗り出していればと、一生、考え続けることになるだろう。


 そんなことはイヤだ。

 せっかく自由の身になって、冒険者になったんだ。

 大変なことだとしても、逃げずに立ち向かいたい。


「ソフィア、僕は……」

「はい、いいですよ」

「えっと……まだなにも言ってないんだけど?」

「依頼を請けるのでしょう?」

「そのつもりだけど、よくわかったね」

「私を誰だと思っているのですか? フェイトの幼馴染ですよ。あなたのことは、世界で一番知っています」

「……」

「どうしたのですか、ぽかんとして」

「いや、うん……なんだか、うれしくて」


 ソフィアの言葉はいつも温かくて、一人じゃないと教えてくれる。

 彼女が隣にいれば、なんでもできるような気がした。

 それこそ、今回の依頼もきちんと解決できると思う。


「でーすーかーらー……」


 受付嬢のジト目、再び。

 イチャイチャしているつもりはなかったのだけど、そう見えていたらしい。


 やや恥ずかしい。

 反省。


「と、とにかく」

「ごまかしましたね」

「ですね」


 ソフィアまで裏切らないでくれないかな?


「その依頼、僕達で良ければ請けるよ」

「ありがとうございます! 期待の新星のフェイトさんと、剣聖のソフィアさんなら、きっと解決できると信じています」


 そんなわけで……

 僕達は、殺人鬼の捕縛、もしくは討伐の依頼を請けたのだった。

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さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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