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248話 実はすごいわんこでした

「幸いにも、襲撃者を撃退することができました。しかし、その時の混乱で姫様は行方不明になり……」


 当時を思い返している様子で、クローディアさんは悲痛な表情を浮かべた。


 とても悲しく。

 そして、とても悔しかったのだろう。


 テーブルの上に乗せられた手に、ぎゅうっと力が込められている。


「すぐにでも姫様を探すための旅に出たかったのですが、里の被害も大きく……また、同じことが起きないように、里の移転も決定して……今の今まで、姫様を探しに行くことができませんでした。誠に申しわけございません!」


 クローディアさんは、ものすごく悔しそうな顔をしつつ、アイシャに向かって頭を下げた。


 突然のことに、アイシャがビクリと震えて驚く。

 ただ、クローディアさんの真摯な想いは伝わったらしく、逃げるようなことはしない。


 俺の後ろに隠れたままだけど、顔をそっと出して、


「……別に、気にしてないよ?」


 そう、彼女を気遣う言葉を投げかけた。


「姫様……ありがたきお言葉です!」

「うぅ……」


 姫様と呼ばれることに違和感があるらしく、アイシャはもじもじとした。

 尻尾が不安そうに揺れていたので、頭を撫でてみる。


「えへへ」


 ふにゃっとした笑顔を浮かべて、尻尾が落ち着いた。


「っと……失礼、話が逸れてしまいました」

「獣人の里はどうなったのですか?」

「移転は完了して、だいぶ落ち着きを取り戻しました」


 ソフィアの質問に、クローディアさんは笑顔で答える。


「たまたま、というべきか。それとも運命だったのか、新しい里は、このスノウレイクの近くにあるのです。近くといっても、一週間は歩かないといけませんが……そのようなわけで、私は何度かこちらに足を運び、新しい里で必要な道具を揃えると同時に、姫様の手がかりを探していたのです」

「なるほど」

「そうしたら、偶然、お二人に出会い、姫様と再会することができて……やはり、これは運命なのかもしれませぬ」


 僕は、それほど信心深い方じゃないけど……

 それでも、クローディアさんの言うことに納得してしまう。

 それくらい劇的な出会いと再会だったと思う。


「……フェイト」


 そっと、ソフィアが僕だけに聞こえる声で呼びかけてきた。


「……これから、どうするんですか? アイシャちゃんは……」

「……アイシャは、僕達の娘だよ」


 アイシャを知る人と出会うことができて、それは本当に良かったと思う。

 でも、アイシャが僕達の娘であることに変わりはない。


 アイシャが里で暮らしたいというのなら、それを止めることはできないけど……

 そうでない限りは、ずっと一緒にいるつもりだ。


 いつか嫁に行く?

 ダメ。

 そんなのは絶対にダメ。


「その……クローディアさんは、これからどうするつもりなんですか?」

「そうですね……姫様を見つけることができたのなら、すぐに里に迎え入れたいところなのですが……」


 ちらりと、僕達を見た。


「それが最善なのか、迷うところではあります」


 良かった。

 こちらの事情を理解して、強引な手に出るつもりはないようだ。


「それに、私にはもう一つ、使命があります故」

「もう一つ?」

「はい。同じく里から消えてしまった神獣様を探すことです」

「神……」

「獣……?」


 僕とソフィアは顔を見合わせた。


「人間で言う、女神様のようなものでしょうか。神獣様は、我ら獣人の神なのです。その神獣様の子供がいたのですが、やはり、先の事件で行方不明になってしまい……くっ、今どこでなにをされているのか。ああ、おいたわしや。せめて無事でいてくれれば……」

「ねえねえ」


 成り行きを見守っていたリコリスが口を開いた。


 ふわふわっと宙を飛んで……

 少し離れたところで、おとなしく座っていたスノウの頭に着地する。


「その神獣って、この毛玉のこと?」

「は?」


 そこで初めてスノウの存在に気がついたらしく、クローディアさんは目を丸くした。


「……」


 硬直すること、一分くらい。


「神獣様っ!!!?」


 クローディアさんは、椅子を蹴飛ばすような勢いで立ち上がり、叫ぶ。

 ダダダッ! と駆けてスノウのところへ。


「ああ、神獣様! 神獣様! まさか、このようなところで見つかるなんて……これも神獣様のお導きなのですね。ありがとうございます、神獣様。おかげで神獣様を見つけることができました」


 かなり混乱しているみたいだ。


 でも……


「スノウって、すごい犬だったんだね」


 そんな感想が思い浮かぶのだった。

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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] と、いうことはアイシャとスノウは同じ里の出身・・? だから、ブルーアイランドのときは引き寄せられたのかな。
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