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246話 思い切り泣くといい

「……」


 夜。

 リコリスは、スティアート家のテラスに出て、ぼーっと夜空を眺めていた。


 今日は比較的温かいけれど、それでも、スノウレイクは寒冷地帯だ。

 夜風は凍えるほどに寒く、吐息は白い。


 それでも、リコリスは夜空を眺めていた。


 そんなリコリスに、そっと上着がかけられる。

 旅に出る前に買った、妖精用の防寒具だ。


「あ……」

「どうしたんですか、こんなところで」


 振り返るとソフィアがいた。

 防寒具も彼女が用意してくれたらしい。


「んー……別に。なんとなくかしら」

「友達のことを考えていたのですか?」

「……まーね」


 いつになくおとなしいリコリスは、ゆっくりと語る。


「ノノカのこと、気持ちの整理はしたつもりだったんだけど……なーんか、こんなところで話を聞くとは思ってなくてさー」

「そうですね。私も、意外なところで知り合いの話を聞くと驚いてしまいます」

「あたし、ノノカの一番の理解者だと思ってたのよねー。ずっと長いこと一緒にいたし? 冒険に行っている以外は、やっぱり一緒にいたし? ノノカのことはあたしが一番知っている、みたいな?」

「そうですね」

「でも……」


 リコリスは軽く下を向いた。

 その表情は、ソフィアの方からは見えない。


 ただ、リコリスがどんな顔をしているのか、ソフィアには想像できた。

 できたけど、それについて触れるようなことはしない。


 いつもと変わらない様子で……

 ただ、隣に寄り添う。


「ノノカって、けっこう無茶してたのねー……」

「そうみたいですね」

「煉獄竜とか、とんでもないヤツを相手にしてて、さすがにあれはビックリしたわ」

「なかなかにワイルドですね」

「そうなのよ。いつもボロボロになって帰ってくるし……そのくせ、笑顔だし」


 リコリスはさらに下を向いた。


「……冒険者に襲われた時も、自分のことよりもあたしのことを心配していたし」

「そうですか……」

「普通、逆でしょ。自分の心配をしなさいよ。あたしなんか、かばってる場合じゃないでしょ。まったく……フェイトと似て、本当にお人好しなんだから」


 ぽつりと、なにかが地面に落ちた。


 とても小さな雫。

 リコリスの涙だ。


「こんな……不意打ち、みたいに……思い出させない、でよ……もう……」


 一度、涙がこぼれると、もう我慢できなかった。

 次から次に雫が落ちていく。


「……」


 ソフィアはなにも言わず、そっとリコリスに手を伸ばした。

 そのまま自分の肩に乗せて、頬を寄せる。


「寂しい時や悲しい時は、泣いていいと思いますよ」

「……」

「大事な人のことを思い返して泣くことは、悪いことではありません。心配をかけてしまう、ということもありません」

「あんた……」

「だから……思い切り泣くといいと思います」

「……っ……」


 リコリスの顔がくしゃりと歪んで……

 そして、夜空に妖精の泣き声が響いた。




――――――――――




「……さっきのあたしは忘れなさい、ずびっ」


 ほどなくして泣き止んだリコリスは、いつもの調子に戻っていた。


 目が赤く。

 鼻水がちょっと垂れているものの、その表情はスッキリとしたものだ。


「さっきのリコリスというのは、私にすがりついて、思い切り泣いていた時のリコリスでしょうか?」

「ばっ……!? だから忘れなさいって!」

「ええ、そうですね。そうしたいところはやまやまですが、あのようなリコリスは初めて見るので、なかなかインパクトが強く……簡単に忘れられるかどうか」

「ぐぬぬぬ」

「これは、フェイトやアイシャちゃんに相談するしかないですね。このようなことがあったのですが、どうすれば忘れることができますか、って」

「だーーー!!! そんなことしたら、暴れるわよ!? めっちゃ暴れるわよ!?」

「すでに暴れているじゃないですか」


 ぽかぽかぽか、とリコリスはソフィアを叩く。

 しかし、所詮は妖精の腕力。

 剣聖相手にどうにかすることはできず、子供が駄々をこねているようにしか見えない。


「リコリス」

「なによ!?」

「今は、私達が一緒にいますからね」

「……ふんっ」


 リコリスはそっぽを向いた。

 その耳は赤くなっていた。


 どんな表情をしているのか?

 それは、当の本人にしかわからない。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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