241話 流星の剣
スノウレイクに戻った後、ホルンさんと別れ、自宅へ。
父さんと母さんに迎えられて。
ルーテシアに迎えられて。
あと、ミントにも迎えられた。
たまたま遊びに来ていたらしい。
ミントを見たソフィアは、なにやら笑顔で彼女に話しかけて……
ミントも笑顔で応対して……
うん。
二人は仲が良いのかな?
そして、僕は……
「ふぅ」
自室のベッドに横になり、ぼーっと天井を眺めていた。
疲れた。
肉体的な疲労だけじゃなくて、精神的な疲労も大きい。
煉獄竜と戦い、無事に倒すことができた。
それはうれしいのだけど……
レナの言葉が気になる。
僕とソフィアを黎明の同盟に誘う。
思ってもいなかったことなので、まだ少し動揺していた。
それと、気になることはもう一つ。
「これ……雪水晶の剣、なのかな?」
父さんとアイシャとリコリスのおかげで、折れてしまった雪水晶の剣は修理された。
でも、ところどころが以前と違っている。
使い勝手は変わらないのだけど、切れ味や耐久力は格段に上がっていた。
見た目は似ているけど、中身はまったくの別物だ。
「どうして、こんな風になっているんだろう……?」
「それはアイシャのおかげね」
「うわっ」
いきなりリコリスが現れて驚いた。
暗殺者じゃないんだから、音を消して忍び寄らないでほしい。
「アイシャのおかげって、どういうこと?」
「あの子の魔力を使って剣を修理したでしょ?」
「うん」
「思っていたよりもあの子の魔力がすごくてねー。必要以上の魔力を受けて、剣が自己進化したみたいなの」
「じ、自己進化……?」
なにそれ、怖い。
思わず雪水晶の剣をまじまじと見てしまう。
自己進化っていうことは、この剣、生きているのかな……?
「例えよ、例え。剣が生きているなんて、そんなことはないわ」
「そ、そうなんだ……」
「でもまあ……ノノカの想いも詰まってるだろうから、ある意味では、生きているのかもしれないわね」
「……」
「色々な人の想いを受け継いでいく。そんな剣なのよ、これは」
リコリスはしんみりとした表情で言う。
雪水晶の剣が無事に修理されて。
それに関連して、友達のことを思い返して。
色々な想いが胸を巡っているのだろう。
「リコリスは説明をしに来てくれたの?」
「それもあるけど……あと、ちょっとした提案ね」
「提案?」
「剣の名前、新しくフェイトがつけてあげて」
「え」
唐突な話に驚いてしまう。
どういうことだろう?
「妖精が作る剣って、持ち主に応じて変わったり、与えられた役目によって変わったりするの。成長する剣なのよね」
「そんなものが作れるなんて、すごいね……」
「ノノカは、人間との友情の証として雪水晶の剣を作った。だから、ずっとあのままだったの。友情の証だから、変わったりしたらまずいからね」
「なるほど」
だから成長しなかった。
ずっと同じ形でいて……
ホルンさんとの友情を示し続けた。
そんなところだろう。
「ただ、折れちゃって、役目が終わったのよ。で、打ち直して……新しく生まれ変わった。だからその剣は成長したの」
「僕に名前をつけてほしい、っていうのは?」
「その剣は生まれたばかりのようなもので、なにも役目がないのよ。だから、フェイトが新しい主として、役目と名前をあげて」
「僕が……」
とんでもなく重要な役目だ。
ノノカが残した剣を、僕があれこれしていいのかな? っていう疑問はあるんだけど……
でも、リコリスが言っているのだから、そこは問題ないのだろう。
「うーん」
考える。
剣の名前と、その役目。
今、ふさわしいものは……
「……流星の剣、なんてどうかな?」
「悪くないわね。でも、どういう意味なの?」
「剣が新しく生まれ変わったとしても、託された願いとかは引き継いでいると思うんだ。だから、僕はそれをなくしたりしたくなんかない。受け継いでいきたい」
それだけじゃなくて……
「新しい願いとかも受け止めていきたいと思うんだ。だから……」
「願いを捧げる流星の名前にした、っていうわけ?」
「うん」
「ふーん……いいんじゃない?」
そっけなく言うリコリスだけど、笑みが浮かんでいた。
たぶん、認めてくれたんだと思う。
「うん。今日から君は、流星の剣だ」
よろしく、と心の中で相棒に声をかけた。




