239話 悲願
煉獄竜は悲鳴をあげて地面を転がる。
当たり前のことだけど、翼を切り落とされたことなんてないのだろう。
その激痛に悶え、ありえない現実にパニックに陥っていた。
でも、まだ油断はできない。
手負いの虎ほど厄介と言うし……
もしかしたら、とんでもない切り札を隠し持っているかもしれない。
焦らず、慎重に追い詰めて……
「ふっふーん、所詮、このリコリスちゃんの敵じゃないわね! さあ、覚悟なさい!」
「ちょっ!?」
雪水晶の剣を届けに来ただけのはずのリコリスが、なぜか参戦。
前に飛び出して、魔法を詠唱する。
「リコリスちゃんファイアー!」
わりと大きな火球が離れて、煉獄竜に直撃。
それなりの爆発が起きるのだけど……
「グルァッ!!!」
「ひゃあ!?」
それなり、の攻撃では通用しない。
怒りを買うだけで、リコリスは慌てて後方に退避した。
「フェイトー! ソフィアー! あと、おっちゃん。そんなドラゴン、さっさとやっつけちゃいなさい!」
そして、応援。
えっと……
本当になにをしているんだろう?
雪水晶の剣を届けてくれたことはうれしいけど、あまり無茶をしないでほしい。
下手をしたら、リコリスが狙われるかもしれないのだから。
決着は……僕達がつける。
いや。
「おおおおおぉっ!!!」
ホルンさんがつける。
「このっ!」
「はぁあああっ!」
僕とソフィアは援護に徹した。
というのも、片翼を失った煉獄竜が、今まで以上に暴れ始めたからだ。
ただ、手負いの虎というような脅威は感じない。
最後の悪あがきという感じで、デタラメに暴れまわっている印象だ。
あと少し。
「全部持っていけっ!」
ホルンさんは、ありったけの爆撃剣を投擲した。
煉獄竜はそれを危険なものと学習して、避けようとするが……
しかし、そんな隙間がないくらいに、雨あられと剣が降り注ぐ。
結果、煉獄竜は避けることができず、無数の爆撃をその身に受けた。
鱗がはがれ、肉が裂ける。
血が流れて、悲鳴がこぼれる。
「グゥウウウ……」
どんどん動きが鈍くなってきた。
その口からこぼれる唸り声も、弱々しくなってきている。
ここまでくれば、あとは……!
「フェイト!」
「うん! ホルンさん、トドメは任せました!」
ソフィアの合図で、僕達は一緒に突撃した。
かなり弱っているものの、未だ煉獄竜の攻撃は激しく、苛烈だ。
爪を振り回して、尻尾を薙ぐ。
ブレスも吐く。
それらを回避しつつ、二人同時に攻撃を加えて……
そして、僕の雪水晶の剣とソフィアのエクスカリバーが、それぞれ煉獄竜の足の付根を刺す。
さらに刃を根本まで押し込んだ。
そして、ぐるりと強引に回転させて、神経を断つ。
「ギァアアアアアッ!!!?」
これで、ヤツはもうまともに動くことができない。
防御をすることも逃げることもできない。
だから……
「「ホルンさんっ!!!」」
「うむ!!!」
ホルンさんが真正面から駆ける。
そうすることで、あえて煉獄竜の注意を自分にひきつけているみたいだ。
ホルンさんの様子から、なにかただならぬものを感じ取ったのだろう。
煉獄竜は彼を第一の標的として、ブレスを放つ。
……でも、それが命取りになる。
「それを待っていたぞ!」
それは、かつてノノカが手に入れたという宝物。
どんな攻撃も一度だけ跳ね返すという、魔法の鏡。
それによって、ブレスは正反対に跳ね返された。
煉獄竜は自分の攻撃をまともに浴びることになって……
「これで……終わりじゃあああああっ!!!」
そして、ホルンさんの渾身の一撃が煉獄竜の瞳を貫いた。




