237話 戦況は傾いていく
「あっ……」
壁のように巨大な尻尾が迫る。
その動きはやけにゆっくりだ。
でも、僕の動きもゆっくりで、速く動くことができない。
これは……まずい?
死……
「フェイトっ!!!」
「うわっ!?」
突然、ふわっと体が宙に浮いた。
いや、ソフィアに抱えられていた。
そのまま大きく跳んで、着地。
地面に下ろされた。
「大丈夫ですか!?」
「う、うん……ありがとう」
「よかった……くっ」
「ソフィア!?」
軽くよろめいてしまうソフィアを慌てて支えた。
見ると、利き手である右腕に裂傷が。
綺麗な手が血で濡れてしまっている。
「もしかして……今、僕を助けた時に……」
「私なら大丈夫です」
そう言うものの、強がりであることは明らかだ。
「くっ……!」
自分が情けない。
彼女の力になるどころか、足を引っ張ってしまうなんて。
でも、後悔するのは後だ。
反省も後だ。
今は戦闘に集中しないと。
「ソフィアは、ポーションとかで治療を。その間、僕が時間を稼ぐから」
「ですが……」
「大丈夫。やってみるよ!」
返事を待たないで突撃をした。
さきほどよりも速く。
そして、深く深く集中して……
全力全開。
体も心も魂も、全てを振り絞るような感じで戦う。
「おおおおおおおぉぉぉっ!!!」
戦う。
戦う。
戦う。
剣を振り、大地を駆けて、壁を蹴り跳躍して、再び剣を振り、突き出して、薙いで、払い、叩き、打ち上げ……
ありとあらゆる攻撃を叩き込んでいく。
「これは……」
わずかにだけど、ソフィアの驚くような声が聞こえてきた。
ただ、僕自身も驚いていた。
まさか、煉獄竜と互角に渡り合うことができるなんて。
たぶん……
覚悟が決まったんだろう。
絶対に倒すと意気込んでいた。
負けられないと決意を固めていた。
でも、いざ煉獄竜と相対したら、情けないことにその迫力に飲まれてしまった。
だから、自分でも気づかないうちに動きが鈍くなっていて、さっきのようなミスをしてしまって……
だけど、そんなことはもう終わり。
絶対に同じ過ちは繰り返さない。
そんな覚悟が、僕の力を限界を超えて高めてくれているのだと思う。
もっと強く。
もっと速く。
これ以上、ソフィアを傷つけさせない!
スノウレイクも襲わせたりなんかしない!
ホルンさんとノノカの最後の依頼も果たしてみせる!
あれもこれもと、欲張りかもしれないけど……
でも、今だけは!
「ガァッ!!!」
煉獄竜の意識が完全にこちらへ向いた。
ホルンさんも攻撃をしかけているのだけど、脅威度は僕の方が高いと判断したのだろう。
でも、それは大きな間違いだ。
「ふん。竜といえど、所詮は獣。これを食らうがいい!」
ホルンさんが剣を投擲した。
剣は、どこでも買えるような安物だけど……
その先端に特製の爆薬がくくりつけられている。
剣がドラゴンの鱗を叩き、その衝撃で起爆。
ゴガァッ!!! と洞窟全体を震わせるようなほど、激しい衝撃と轟音が撒き散らされた。
一度だけじゃない。
二度、三度とホルンさんは剣を投擲して、その度に大爆発が起きていた。
至近距離で上級魔法を連発されるようなものだ。
いくら竜とはいえ、ひとたまりもない。
もちろん、これで倒せるとは思っていないけど、
「グゥウウウ……」
煉獄竜の勢いは明らかに衰えた。
しっかりとダメージを負っている様子で、動きが目に見えて鈍くなる。
攻めるなら今だ!
僕はさらに前に出て、剣を全力で振り下ろして……
ギィンッ!
「え?」
剣が折れた。




