234話 やっぱりお前か!
竜は自分を抱きかかえるようにして、氷の中で眠っていた。
その氷は地面から生えていて、天井にまで届くほどに巨大だ。
これが封印なのだろう。
ただ、ホルンさんが言っていたように、封印が解けようとしていた。
軽く触れてみると、溶け始めている。
どれくらいかかるのか、それはハッキリとは言えないけど……
そのうち氷が溶けて、煉獄竜は解放されてしまうだろう。
「これは……す、すごいね」
想像していたものの倍くらい大きい。
迫力も満点だ。
こんな相手に勝てるのだろうか? と不安になってしまうのだけど……
でも、右を見ればソフィアがいる。
反対側にはホルンさんがいる。
うん、大丈夫だ。
僕は一人じゃない。
頼もしい恋人と先輩がいる。
なら、きっとなんでもできるはずだ。
「フェイト、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫」
「なら良かったです」
彼女の笑顔がたくさんの勇気と元気を与えてくれた。
「では、封印を解くぞ」
「はい」
ホルンさんが氷漬けの煉獄竜に近づいて……
「ホルンさん、待ってください!」
それに気づいて、慌ててストップをかけた。
巧妙に隠しているけど、覚えのある気配が。
それと、よくよく見てみると、奥に人影が。
「そこにいるんだよね?」
「……」
「もう気づいているから、黙っていても無駄だよ」
「……ちぇ」
姿を見せたのは……
「うまく隠れたつもりだったんだけどなー。なんでわかったの? あ、これって愛の力?」
レナだった。
「むっ」
色々な意味でライバルのレナを発見したソフィアは、反射的にという様子で僕を抱き寄せた。
ぎゅっとされてしまう。
い、色々と当たっているのだけど……
でも、ソフィアは僕を離してくれない。
「むかっ。なに、それ。ボクを挑発しているの?」
「いいえ、そのようなことはありません。私とフェイトは相思相愛ですからね。あなたなんて道端の石のようなもので、相手にされることもありませんし」
「ぐぎぎぎ!」
「むむむ!」
二人がにらみ合い、バチバチと火花が散る。
「えっと……ソフィア? 今はこんなことをしている場合じゃ……なんでレナがこんなところにいるのか、それを問い詰めないと」
「はっ!? そ、そうですね……」
「でも、大体の予想はついているけど」
煉獄竜の封印が解け始めた。
そして、黎明の同盟であるレナが封印の地にいる。
この二つを偶然と考えるほど抜けているつもりはない。
「レナが煉獄竜の封印を解こうとしていたんだね?」
「正解♪」
「やけにあっさり認めるんだね」
「まあ、状況証拠が揃いまくりだからね。ここまできて否定しても、白々しすぎるでしょ? ならまあ、愛するフェイトのために素直に答えてあげようかな、って」
「フェイトを愛しているのは私です!」
そこ、対抗しないで。
「どうしてこんなことを……」
「あ、勘違いしないでね? 近くの街を滅ぼしてやろうとか、そういう物騒なことは考えてないから」
「どうでしょうか。あなたの性根はねじ曲がっていますからね。ちょっとしたいたずらで街を滅ぼそうとしても、おかしくないと思いますが」
「やだなー、さすにそんなことはしないって。ただ単に……って、素直に目的を話すところだった。面倒だから、隠したままにしておこうっと」
てへ、と笑うと、レナは洞窟の奥へ移動する。
「待ちなさい!」
「やだよー」
待てと言われて待つ者はいない。
そんなことを言うかのように、レナは奥へ消える。
「ま、今回は素直に退いておくよ。ばいばいーい」
そして、気配が完全に消えた。
レナの性格上、隠れて様子を見る、っていうことはなさそう。
たぶん、本当に立ち去ったのだろう。
「くううう……あの泥棒猫は!」
「お、落ち着いて、ソフィア。ここにレナがいたことは驚いたけど、でも、僕達がやるべきことは別のことだよ」
「……そうですね」
「ふむ? なにやら因縁のある相手じゃったが、よいのか?」
成り行きを見守っていたホルンさんが、そう尋ねてきた。
それに対してしっかりと頷いてみせる。
「大丈夫です。今の目的は煉獄竜を倒すことで、彼女を追うことじゃないですから」
「ならよいが……他に気を取られていると、それが致命傷になるかもしれぬぞ?」
「気をつけます」
レナのことは今は忘れよう。
煉獄竜の討伐だけを考える。
ソフィアも気持ちを切り替えたらしく、凛とした表情に。
そうやって僕らの覚悟が決まったのを感じたらしく、ホルンさんは表情を引き締めた。
「では……いくぞ」