表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
232/520

231話 ありがとう

「あーうー?」

「はーい、よしよし」

「きゃっきゃっ」


 スティアート家のリビングで、ソフィアは末っ子のルーテシアを抱いていた。


 慣れたもので、しっかりとルーテシアを抱いている。

 心地いいらしく、ルーテシアは笑顔で、小さな手をソフィアに伸ばしていた。


「あらあら。ルーテシアちゃんは、ソフィアさんのことを好きになったみたいね」

「ふふ、そうだとうれしいです」


 リビングにいるのはソフィアとアミラとルーテシアの三人だけだ。

 他のメンバーは、剣の修理の準備を進めている。


 ソフィアも手伝ってもよかったのだけど……


 それよりも、幼い子を抱えつつ、一人で家事をするアミラのことが気になり、ルーテシアの面倒を見ることにしたのだった。


 食器を洗い終えたアミラは手を拭きつつ、ソフィアの隣へ。


「ありがとう、ソフィアさんのおかげで助かったわ」

「お役に立てたのならなによりです」


 にっこりと笑うソフィア。

 ただ、その笑顔の下は、実は緊張でいっぱいだった。


 スノウレイクにやってきて、しばらくの時間が経っているが……

 フェイトを抜きにしてエッジやアミラと話をしたことはない。


 いつもフェイトが一緒にいた。

 だから特に緊張することもなく、自然体で接することができた。


 しかし、今は二人だけ。

 失礼をしてしまわないか?

 嫌われてしまわないだろうか?


 ソフィアの心境は、息子さんを婿にください! と挨拶をする者のそれで……

 とてもとても緊張していた。


「あうー」


 そんなソフィアの心をほぐすかのように、ルーテシアが触れてきた。

 小さい指はとても温かく、自然と笑顔になる。


「ふふ、かわいいですね」

「ソフィアさんは、赤ちゃんの予定は?」

「え」

「フェイトと子供を作らないのかしら?」

「……えぇ!?」


 ぼんっ、とソフィアの顔が耳まで赤くなる。


 それから、大きな声を出してしまったことで、はっとした顔になり、慌ててルーテシアを見る。

 ルーテシアは特に驚いてなくて、機嫌良さそうに笑っていた。


「ほ……」

「どうしたの、そんなに驚いて」

「お、驚きます。突然、そのようなことを言われるなんて」

「あら。でも、二人は付き合っているのでしょう?」

「……はい」

「結婚する予定なのでしょう?」

「……は、はい」

「なら、問題ないじゃない」


 そういうものだろうか?

 剣を極めたソフィアではあるが、こと恋愛に関してはド素人だ。

 アミラの言うことが本当に正しいかどうかわからず、なんともいえない表情をしてしまう。


「子供を作るにはえっちをしないといけないけど、別にそれは恥ずかしがることじゃないのよ?」

「そ、そういうものですか……?」

「そういうもの。大事な人との子供を作るっていう、とても大事なことだし……そういうのを抜きにしても、好きな人の温もりをものすごく感じることができるの。それ、とても大事なことだと思わない?」

「そう……ですね」


 ソフィアは、自分がフェイトとそういうことをしているところを想像した。

 再び顔が赤くなった。


 理屈ではわかっていても、まだまだ感情が追いつかない。

 そんなソフィアを見たアミラは、孫の顔を見るのはまだ先みたい、と密かに思うのだった。


「それはそうと……ソフィアさん、ありがとう」

「え?」


 突然のお礼の言葉に、ソフィアはキョトンとした。


「えっと……なんのことですか?」

「ソフィアさんがフェイトを助けてくれたのよね?」

「……知っていたんですか?」

「ううん、詳細はなにも知らないわ。ただ、フェイトが大変なことになっているのは、なんとなく想像できたから。定期的に届く手紙が届かなくなって、風の噂であの冒険者達がひどい人って知って……でも、私達はなにもできなかった。助けたいと思っても、そうするだけの力がなかった」


 そう語るアミラはとても悔しそうだ。

 一人の母として、子を守れないことを心底後悔しているのだろう。


「でも、ある日、手紙がまた届くようになったの。そこには、ソフィアさんのことが書かれていて……うん。手紙を見るだけでわかったわ。あの子はソフィアさんに助けられて、そして、充実した日々を送っているんだ、って」


 アミラはそっと頭を下げる。


「だから、ありがとうございました」

「そ、そんなっ」


 ソフィアが慌てる。


「私は、そんな大したことはしていません。フェイトを助けたというか、そんなことはなくて……フェイトは自分であの状況をなんとかしたのです。私は、少し背中を支えたくらいですから」

「それでも、ソフィアさんがいなかったら、どうなっていたかわからないわ。だから、やっぱりお礼を言わせてちょうだい」

「えっと……」


 どうしよう? という感じで、ソフィアは視線をさまよわせて……

 ややあって、アミラを見た。


 その顔は凛々しく、そして、優しくもある。


「どういたしまして」


 それだけで終わらなくて、


「それと、ありがとうございます」

「ソフィアさん?」

「私も、フェイトに何度も助けられてきて……だから、ありがとうございます。アミラさんに言うのはおかしいかもしれませんが、でも、今はそうしたい気分で……ありがとうございます」

「ふふ、どういたしまして」


 ソフィアとアミラは互いに笑う。

 そんな二人の優しい雰囲気にあてられたのか、ルーテシアはすぅすぅと穏やかな寝息を立て始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ