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229話 放っておけるわけがない

 とんでもない話だった。

 天災と同レベルの魔物がスノウレイクの近くにいるなんて……


 もしも街が襲われたら、とんでもない被害が出るだろう。

 場合によっては壊滅してしまうかもしれない。


「って、あれ?」


 続けて、気がついた。


「ホルンさんが煉獄竜と出会ったのって、だいぶ前のことなんですよね?」

「そうじゃな。かれこれ、数十年前になるじゃろうか」

「数十年前?」


 少し疑問に思う。

 それだけ昔からいて、スノウレイクに被害が出ないなんてこと、ありえるのだろうか?


 そんな僕の疑問を察した様子で、ホルンさんが言う。


「ノノカのおかげじゃ」

「ノノカの?」

「一矢報いたというか……最後に、彼女が煉獄竜を封印してくれてな。ヤツは今、とあるダンジョンの奥で眠っている」

「そうだったんですね」


 煉獄竜を封印してしまうなんて、すごい。

 すごいなんて言葉一つで表現できないくらい、本当にすごい。


 さすが、リコリスの友達というべきか。

 ノノカも色々と規格外だったのだろう。


「儂は、友の願いを叶えるにスノウレイクにやってきたのじゃ。今までの依頼は、そのための準備という感じじゃな」

「そうだったんですね……って」


 煉獄竜と戦うということは、その封印を解くわけで……

 もしも討伐できなかったら、そのまま煉獄竜が解き放たれることになる。

 その場合、スノウレイクが狙われる?


「大丈夫じゃよ」


 僕の懸念を察したらしく、ホルンさんが柔らかい口調で言う。


「ヤツはとあるダンジョンの最深部に封印されておってな。眠らせたりするのではなくて、巨大な檻を作り、閉じ込めている感じじゃ。ヤツはその巨体故に抜け出すことはできないが、儂ら人間は自由に出入りが可能じゃ」

「なるほど」


 それなら、もしも討伐に失敗しても煉獄竜が解放されることはない。


 一安心して……

 でも、いやいや違うだろう、と慌てる。


「む、無茶ですよ!」

「なにがじゃ?」

「あの煉獄竜と戦うなんて、絶対に無茶です! 返り討ちに遭うかも……」

「そうじゃな」


 ホルンさんは全て理解している様子だった。


 自分の剣では、煉獄竜に届かないこと。

 そして、絶対的な死が待ち受けていること。


 それでも、穏やかな様子は崩れない。


「なら、どうして……」

「男にはやらねばならん時がある」

「……あ……」

「フェイトも男なら、儂の気持ちがわかるじゃろう?」

「……」


 なにも言い返せない。


 つまらない意地なのかもしれない。

 男なんて、と笑われるのかもしれない。


 でも……


 ホルンさんが言うように、男には、確かにやらねければいけない時があるんだ。


「それに……儂も、もうこの歳じゃ。冒険者を続けているものの、いつ体が自由に動かなくなるかわからぬ。なればこそ、今のうちに仇を取りたい。悔いのない人生を生きたいのじゃ」

「それは……」


 そう言われると、もう反対できなかった。


 ホルンさんにとって、それだけノノカは大事なパートナーだったんだろう。

 その仇を討つ。

 当たり前の考えで、それを止める権利なんて僕にはない。


「最後にノノカの友達に出会うことができてよかった。いい思い出になったよ」


 ホルンさんは死ぬつもりだ。


 煉獄竜に一人で立ち向かうなんて、無謀極まりないけど……

 刺し違える覚悟で挑めば、あるいは。


 だけど……


「……僕にも手伝わせてくれませんか?」


 気がつけば、そんな言葉が飛び出していた。


 ホルンさんは目を丸くして驚く。


「……気持ちだけありがたく受け取っておこう」

「ダメですか?」

「これは儂の戦いじゃ。無関係のフェイトを巻き込むわけにはいかん」

「無関係なんかじゃありません」

「む?」

「僕はリコリスの友達……というか、家族みたいなものだと思っています。そして、ノノカはリコリスの友達。関係あります」

「それは……」

「それに、封印がずっと続くわけじゃないですよね? もしかしたら、なにかの弾みで解けてしまうかもしれない。なら、煉獄竜の討伐は、スノウレイクにとってとても大事なことです。故郷を守るための戦いでもあります」

「むう……」


 思いつくまま言葉を並べて、ホルンさんの退路を塞いでいく。

 咄嗟に出てきた言葉だけど、わりと説得力があったみたいで、ホルンさんは苦い表情に。


「それに……」

「それに?」

「僕は逃げたくありません」


 ここで、ホルンさんに全部任せて、なにもなかったことになんかできない。

 そんなことは絶対にダメだ。


 男として、一人の人間として。

 剣を取り、戦わないといけない場面だって、断言できる。


「……ふぅ」


 ややあって、ホルンさんは小さな吐息をこぼした。

 そして、手をこちらに差し出してくる。


「よろしく頼む」

「あ……はいっ!」


 僕は、しっかりとホルンさんの手を握り返した。

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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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