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228話 ホルンの目的

 あれから一週間が経った。


 たくさん体を動かして、しっかりと休憩をして、再び体を動かす。

 その繰り返し。


 身体能力の高いアイシャでも、最初はとても疲れた様子だったけど……

 トレーニングを繰り返すうちに慣れてきたのか、最近はわりと余裕を見せていた。

 激しい運動に体が慣れてきた証拠だろう。


 この様子なら、あと数日もすれば剣の修理を始められるかもしれない。

 そんな期待を抱きつつ、今日もトレーニングに励んだ。




――――――――――




「すみません。この前依頼を出した、フェイトっていいますけど……」

「はい、フェイト・スティア―トさんですね? 依頼の方、完了しています。こちら、特注の研磨剤と錬精水。それと、黒鉄鉱です」

「ありがとうございます」


 依頼料を払い、頼んでいた物を受け取る。


 どれも剣の修理に必要な材料だ。

 いくらか入手難易度が高い素材があったため、ギルドに依頼を出しておいたのだ。

 安くない依頼料だけど、雪水晶の剣を修理するためなら惜しくない。


「あれ?」


 家に帰ろうとしたところで、ホルンさんの姿を見つけた。

 そういえば、剣の修理に夢中になるあまり、あれから話をしていない。


「こんにちは」

「おぉ、フェイトか。久しぶりじゃな」

「すみません。剣の修理の準備で、色々と忙しくて……」

「なに、謝る必要はないぞ。雪水晶の剣が元通りになることは、儂も願うところ。むしろ、手伝えなくてすまんな」

「いえ、そんな! ホルンさんが謝ることじゃ……」

「……儂には、どうしてもやらなくてはいけないことがあってな」


 そう言うホルンさんは、とても険しい表情をしていた。


 普段の穏やかな雰囲気はどこへやら。

 抜き身の刃のように鋭く、触れることをためらわせる。


 でも、同時に思いつめているような感じもして……


 放っておいたらいけない。

 そんなことを強く思い、不躾なことだと自覚しつつも口を開く。


「その、やらないといけないこと、っていうのは……聞いてもいいですか?」

「……面白い話ではないぞ?」

「それでも、お願いします」

「……」

「……」


 視線と視線が真正面からぶつかる。

 すごい圧で、ともすれば目を逸らしてしまいそうになる。


 それでも我慢して……


「ふぅ」


 やがて、ホルンさんは小さな吐息をこぼした。

 それと同時にプレッシャーも消える。


「こう言ってはなんじゃが、フェイトは意外と気が強いのじゃな」

「そんなこと、初めて言われました……」

「まあ、そうでなければあの剣聖と一緒にいることなどできぬか……いいじゃろう。明るい話ではないが、質問に答えよう」

「ありがとうございます。それと、ごめんなさい」


 話をしてくれるお礼と。

 ズカズカと心に踏み込んだ謝罪をした。


 ホルンさんは小さく笑い、軽く手を振る。


「よい。儂は気にしておらん。それよりも、儂の目的じゃが……」

「は、はい」

「……ノノカに託された依頼を果たすことじゃ」

「託された依頼……ですか」

「うむ。儂とノノカの最後の冒険はこの近くでな……そこで、ヤツに出会ったのじゃ」


 当時を思い返しているらしく、ホルンさんはギリッと奥歯を噛む。


「……当時、儂とノノカはとある素材の採取という依頼を請けていた。遠出をしなければいけなかったが、それほど難しいものではなくて、問題なく終わると思っていたが……しかし、ヤツに……煉獄竜に出会ったのじゃ」

「なっ……!?」


 思わぬ単語が飛び出してきたことに、僕は驚き、言葉を失ってしまう。


 煉獄竜。

 Sランクに指定されている魔物だ。


 その能力は圧倒的の一言に尽きる。

 相対した者はほとんど生き残っていないため、詳細な記録はないのだけど……

 噂によると、一匹で国を一つ、滅ぼすことが可能だとか。

 その噂が決して誇張されたものではなくて、むしろ過小評価されているとか。


 ……そんな話を聞く。


「すみません。こんなこと聞くのはなんですけど、それは本当に煉獄竜なんですか……?」

「うむ、間違いない。儂も自分の目を疑ったが……あれは間違いなく煉獄竜じゃったな。力もその名にふさわしいものじゃった」

「そう、ですか……」


 まさか、そんなとんでもない魔物に遭遇したなんて。


「ヤツのせいで依頼は失敗。そればかりではなくて、多くの森が焼けて、草花も炭になってしまった。そのことを、ノノカは大層悲しんでおったよ」

「……」

「そして、儂に頼んだ。いつか、あいつをやっつけて、とな」

「……」


 その気持ちはよくわかる。

 放っておけばい、そのままになんてしておけない。


 ノノカはもういないのだけど……

 だからこそ、彼女の最後の願いを叶えてあげたいと思うのだろう。


「……あれ?」


 ふと、気がついた。


「今度こそ依頼を果たす、っていうことは……もしかして、この近くに煉獄竜が?」

「……うむ」


 ホルンさんは重々しく頷くのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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