224話 まずい現場
雪水晶の剣を僕が持っていてもいいのか?
その問題について、完全に悩みが晴れたわけじゃない。
でも、ミントのおかげで少しだけ迷いが消えた。
「じゃあ、私、そろそろ……」
「家に帰るね」と、言おうとしたのだろう。
でも、その言葉が出てくるよりも先に扉が開いた。
姿を見せたのは……
「フェイト、これからのことについて……なの、ですが……」
ソフィアだった。
僕を見て、次いで、ミントを見て。
柔らかな顔が、みるみるうちに固くなっていく。
「……あら、あらあらあら」
ソフィアがにっこりと笑う。
ものすごくにっこりと笑う。
怖い。
顔は笑っているはずなのに、目は笑っていない。
「……あっ」
「やば!?」
後ろからアイシャとリコリス、スノウが現れるのだけど……
ソフィアを見るなり反転して、ダダダッ! と逃げてしまう。
娘に怯えられているけど、いいの?
なんてツッコミを入れる雰囲気じゃない。
「フェイト、なにをしているのですか?」
「な、なにも!? 少し話をしていただけで、やましいことはしていないよ!」
「うんうん、幼馴染の話をしていただけだよねー」
「フェイトの幼馴染は、この私なのですが!」
「えー、でも、私もフェイトの幼馴染なんだけどー」
バチバチと、二人の間で火花が散ったような気がした。
「フェイトは、私と一緒にお話をして楽しかったよねー?」
「っ!?」
ミントが左腕に抱きついてきた。
ぎゅうっと、体を押し付けるようにして……
そんなことをしているせいか、柔らかい感触が……
「私と一緒の方がいいですよね!?」
「っ!?」
反対側にソフィアが抱きついてきた。
やはり、ぎゅうっとしていて……
柔らかくてふくよかな感触が……
「フェイトー」
「フェイト!」
「えっ、いや、その……」
僕はどうすれば!?
というか、普通に話をしていただけなのに、どうしてこんなことに!?
いや、うん。
わかってはいるんだ。
ソフィアは嫉妬してくれていて、ミントは、それを見てからかっているだけ、っていうことは。
でもでも、こんな修羅場っていう状況は初めてで……
混乱して、どうしていいかわからない。
思考がぐるぐるになって、うまい言葉が出てこない。
「おい、フェイト」
進退窮まったところに現れた救世主は、父さんだった。
ソフィアとミントに挟まれた僕を見て、呆れるようなため息。
それから、こちらにやってきて……
「なに遊んでやがる」
「あいた!?」
げんこつをくらってしまう。
「これからについて話をしたい。遊んでないで工房に来い」
「ぼ、僕は遊んでいるわけじゃ……」
「いいな、早くしろよ」
言うだけ言って、父さんは部屋を後にしてしまう。
残された僕達は……
「えっと……そういうわけだから」
「……命拾いしましたね」
「……なんのことかなー」
二人は離れてくれるものの、未だに笑顔で睨み合っていた。
勘弁して。
――――――――――
工房に移動すると、リコリスの姿があった。
その隣に父さんがいて、僕達がとってきたミスリルを見ている。
「……」
その表情は真剣そのもの。
『職人』としての父さんの顔を久しぶりに見て、なんだか、とても懐かしくうれしいと思った。
「おう、来たか」
「さきほどは失礼しました」
一緒に来たソフィアが軽く頭を下げた。
ちなみに、ミントは自分の家に帰った。
もう遅い時間だから、と言っていたのだけど……
一通りソフィアをからかい、満足したのだろう。
のんびりしてて、ふわふわしてて……
そんな女の子に見えるのだけど、実は、ミントはいたずら好きなのだ。
「こいつについての話をするぞ」
父さんは、折れた雪水晶の剣を指先でコンコンと叩いた。
「修理できそう……?」
「できる、と言いたいが……ちと厄介なことになった」




