223話 いいのかな?
それから、しばらくしてホルンさんが落ち着きを取り戻して……
スノウレイクへ戻り、宿の前で別れて……
僕とソフィアは家に帰り、アイシャとスノウに迎えられつつ、父さんと母さんと一緒に夕飯を食べた。
「……」
自室へ戻り、ベッドに寝つつ、ぼーっと天井を見る。
考えるのはホルンさんの話だ。
リコリスの友達のノノカと出会い。
友情の証として、雪水晶の剣をもらい。
一緒に世界を旅した。
しかし……
ノノカは妖精狩りに遭ってしまい、最終的に命を落としてしまう。
そのことを悔いたホルンさんは、雪水晶の剣を手放してしまう。
僕はそっと体を起こして、傍らに立てかけておいた、雪水晶の剣の鞘を見る。
「僕が持っていていいのかな……?」
雪水晶の剣は修理する。
これは絶対だ。
でも、その後は?
雪水晶の剣は、ホルンさんとノノカの友情の証だ。
もっと大げさに言うのなら、人間と妖精の絆の架け橋。
「そんな大事なものを僕が持っているなんて……あ、はい?」
考え込んでいると、途中で扉をノックする音が響いた。
ソフィアやアイシャかな?
リコリス……は違うか。彼女ならノックなんてしない。
「こんばんはぁ」
「あれ、ミント?」
姿を見せたのは、意外というかミントだった。
もう夜なのに、どうして僕の家に?
「どうしたの?」
「私の家のお風呂が壊れちゃって、ちょっと借りていたの」
「そうだったんだ」
「それでー、フェイトとお話でもできればー、なんて」
「うん、いいよ」
「ありがとー」
ミントはにっこりと笑い、近くの椅子に座る。
僕も体を起こして、ベッドに座る。
「フェイトの部屋、久しぶりかもー」
「そうだよね。十年以上、帰っていなかったから」
「長すぎるよー。どうして、もっと頻繁に帰ってこないのー?」
「えっと……」
奴隷になっていました。
……なんて、絶対に心配をさせてしまうので言えるわけがない。
「……ちょっと忙しくて」
「そっかー、それなら仕方ないねー」
ミントはふんわりとした様子で言う。
僕の気持ちを察してくれたというよりは、特に気にしていないのだろう。
そういう女の子だ。
「じゃあじゃあ、暗い顔をしている理由は聞いてもいいかなー?」
「え? 僕、そんな顔をしているの?」
部屋にある鏡を確認してみるけど、特に変わらないように見えた。
「いつもと同じだよね?」
「ぜんぜん違うよー?」
「そう、なのかな……?」
ミントにしかわからないのかな?
「えっと……ちょっと、今悩んでいることがあって」
迷った末、少しだけ話してみることにした。
詳細はホルンさんやノノカのプライベートに関わるから話せないけど……
ぼかす形でなら問題ないと思う。
「雪水晶の剣なんだけど……」
「フェイトのお父さんに修理をお願いした?」
「うん。あの剣って、とある友情の証に作られたものなんだ」
「へー、素敵な話だねー」
「でも……僕は関係なくて」
天井を見上げる。
「本当に偶然手に入れただけで、それなのに僕が持っていていいのかな、って……」
「いいんじゃないかなー?」
あっさりと肯定されてしまう。
でも、ミントは考えなしにものを言う子じゃない。
悩み相談をした時は、きちんと考えて、ミントなりの答えを口にしている。
「それは、どうして?」
「だって、ピッタリに見えるよ」
「ピッタリ?」
「フェイトと雪水平の剣」
「水晶ね」
ピッタリって、どういう意味だろう?
「んー……私の感覚だからうまく説明できないんだけど、この前、ちょっと見たんだ。フェイトがその剣と一緒にいるところ」
「うん」
「そうしたら、すごく絵になっていたというか、違和感がないっていうか……いい感じ?」
「と、言われても……」
「それくらい自然で、なにも問題はないかなー、って思ったの。きっと、剣もフェイトと一緒にいたいと思っているんだよ」
「……剣が……」
意外な言葉に、ついついぽかんとしてしまう。
剣の気持ちなんて考えたことなかった。
いつも僕のことだけで……
「きっと、大丈夫だと思うよ」
ミントがにっこりと笑う。
その笑顔は花のようで、太陽のようで……
自然とこちらも笑顔になる。
「……うん、そうだね。ありがとう」
「どういたしまして」




