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222話 守ることができず……

 無事にミスリルを見つけた僕達は、塔を後にした。


 スノウレイクに続く道を歩いて……

 その最中、ホルンさんがさきほどの話の続きをしてくれる。


「儂とノノカ嬢は、一緒に世界を旅した。人間と妖精、異なる種族じゃが、不思議と気が合ってのう」

「まー、ノノカは変わり者だったからねー。人間に剣をあげちゃえば、一緒に旅をすることもあると思うわ」

「「……」」


 僕とソフィアは、一番の変わり者のリコリスがそれを言う? という顔をした。

 しかし、リコリスはそれに気づかない。


「どんな旅だったんですか?」

「特に目的はなかったのう。色々な街を訪れて、色々な自然を見て、色々な宝を手に入れる……気のむくまま風の吹くまま、という感じじゃな」

「へー」


 そういう旅は憧れる。

 いつか僕も、ソフィアと一緒に……


「フェイト?」

「えっ」

「どうしたのですか? 顔が赤いですよ?」

「う、ううん! なんでもないよ!?」

「?」

「ふぉっふぉっふぉ」


 ソフィアは不思議そうな顔をしていたけど、ホルンさんは僕の考えていることを察した様子で、楽しそうに笑っていた。


 ただ、その笑顔は消えてしまう。


「そうやって、儂とノノカ嬢は世界を旅していたのじゃが……それも、ずっとというわけにはいかなかった」


 ホルンさんの様子に、自然と僕達からも笑顔が消えた。


「妖精狩りは知っておるか?」

「あ、はい……妖精は珍しくて綺麗だから、乱獲されて……」

「……ノノカ嬢も、その被害に遭ってしまってのう」

「っ……!」


 思わず息を飲んでしまう。

 まさか、そんなことになっていたなんて……


「……」


 リコリスは知っていたらしく、驚きの表情はない。

 ただ、他の感情はゼロで……

 まるで人形のような顔をしていた。


「無論、儂はすぐに助け出した。ノノカ嬢をさらったのは貴族だったが、構わずに屋敷に押し入った。そして、助け出したが……儂ら人間がノノカ嬢を傷つけようとしてしまった。こうなった以上、一緒にはいられん……だから、儂らは別れることにしたのじゃ」

「……」


 その時の悔しさを、悲しみを思い出しているのかもしれない。

 ホルンさんは拳を強く強く握りしめていた。


「ノノカ嬢は、友達のいるところに帰る、と言った。儂は彼女を見送り……ただ、最後にとある約束をした。それと再会を願い、別れた」

「そうだったんですね……」

「できれば、またノノカ嬢と一緒に旅をしたかったが……そうか、彼女はもういないか」


 さきほど、ノノカのことを話して……

 それを知ったホルンさんは、寂しそうに言う。


「別れの際、儂は雪水晶の剣を返した」

「どうしてですか?」

「雪水晶の剣は、人間と妖精の友好の証のようなものじゃ。それなのに、人間がノノカ嬢を害そうとした。儂が使っていいものではない」

「それは……!」


 ホルンさんのせいじゃない。

 ノノカをさらったという貴族のせいだ。


 そう言って慰めたかったのだけど……

 でも、ホルンさんの後悔にまみれた表情を見て、なんの慰めにもならないことに気がついた。


 自分が手を下したわけじゃなくても。

 同じ人間がしたことに変わりなくて……

 ならばせめてもと、助けることもできなかった。


 深い自責と後悔があるのだろう。

 そして、それらがホルンさんの心を縛り、雪水晶の剣を手放す決意となったのだろう。


「儂は……ダメな人間じゃった……」


 ホルンさんは、深い深いため息をこぼして……


「……そうでもないわよ」


 ふと、リコリスがホルンさんの後悔を否定する。


「どういう意味じゃ?」

「あたし、ノノカの最期を知っているの。というか、看取ったの」

「……」

「ある日、ノノカがひどく疲れた様子で帰ってきて……それから静養して。元気になったんだけど、ある日、冒険者がやってきてノノカを……」

「そう、か」

「でも、彼女は生きたわ。がんばって生き抜いたの。とてもノノカらしい最期だったわ」

「……」

「で……ノノカは、あんたや人間のことは恨んでなかったわ」

「なに……?」


 ホルンさんがうつむかせていた顔を上げた。

 すると、リコリスと目が合う。


 リコリスは寂しそうにしていたものの、でも、笑っていた。

 小さな笑顔を浮かべていた。


「あの子、バカよね。自分がとんでもない目に遭わされたっていうのに、人間を恨んでなくて。むしろ、感謝していたわ」

「感謝、じゃと……?」

「そう、感謝。色々なところに連れて行ってくれて、色々な経験をさせてくれて、すごく楽しかった……って。ありがとう、って」

「っ……!」


 ホルンさんの顔が歪む。

 ただ、涙は堪えた。


「これも縁ね。あの子の、あんたに向けた最期の言葉を伝えるわね?」

「……うむ、頼む」

「私は先に天に行って、あっちで好きに探索しているね? だから、あなたはゆっくりと生きてから来て。それからまた一緒に冒険しよう……だって」

「そう、か……」


 今度は我慢できなかったのだろう。

 ホルンさんは顔を隠すように手を当てて……


 そして、しばらくの間、肩を震わせた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 雪水晶の剣をフェイトに託したリコリスの想いというのがよくわかりました。
[気になる点] この貴族みたいな事が今後フェイト達にも起こりそうな気が… [一言] 前の話の終わりで魔物を倒してから今回の話で急にミスリルを手に入れた文から始まってちょっと置いてきぼりになりました
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