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218話 雪水晶の剣について

 ホルンさんは、若い頃から冒険者をやっていたらしい。

 それこそ、僕と同じくらいの歳で活躍をしていたという。


 剣聖に至るほどではなかったものの、その下の『剣豪』の称号を得ていたとか。


 弱きを助け悪をくじく。

 正義の味方を地でやっていたホルンさんは、各地を旅しつつ、色々な人を助けてきたという。


 そんなある日、ホルンさんは妖精と出会った。


 とある商人の館の護衛を引き受けたところ……

 そこで、結界に囚われている妖精を見つけたのだ。


 その容姿などから、妖精は人間に乱獲された。

 囚われた妖精は観賞用として閉じ込められることも多く……

 その商人も、妖精を囚え、愛でていたという。


 それを見たホルンさんは激怒。

 結界を破壊して、妖精を解放した。


 商人は激怒して、さらに冒険者ギルドからも厳しい罰を受けることになったものの、後悔は一切していないという。


 そして……


「なぜか、その妖精に儂は懐かれてしまってのう」


 なぜか、って……

 そこまでしたのなら、恩義を感じても不思議じゃないと思う。


 でも、ホルンさんからしたら、大したことはしていないのかもしれない。

 人間でも妖精でも関係ない。

 困っている人がいたら助ける、ただそれだけ。


 すごくかっこいいと思った。

 僕もこんな人になりたい。


「それから、しばらく妖精と一緒に旅をしたのじゃ。なんでも、彼女には大事な友達がいるそうでな。その友達がいる場所まで送り届けたのじゃよ」

「あーーーっ!!!?」


 突然、リコリスが大きな声をあげた。

 耳がキーンとして、思わず顔をしかめてしまう。


「いきなり、どうしたんですか?」

「思い出した、思い出したわ! このおっちゃん、確かに、ノノカを連れてきたわ!」

「ノノカ?」

「あたしの友達の名前よ! なんで忘れるわけ!?」


 忘れるもなにも、たぶん、今初めて聞いたんだけど……


「それはともかく」


 ごまかされた。


「ある日、行方不明になっていたノノカが、見知らぬ人間と一緒にやってきたの。あたしは思ったわ。このおっちゃんが誘拐犯だ、ってね」

「なんで、そうなるの……?」

「短絡的すぎませんか……?」

「そして、あたしは、ウルトラミラクルハイパーリコリスちゃんキックをかましてやったわ!」

「ふぉっふぉっふぉ、あの時は痛かったのう。首が折れるかと思ったわい」


 笑い話ではないような……


「まあ、その後誤解は解けて、しばらく仲良くしたのよ」

「妖精と一緒に過ごすなんて、とても貴重な経験をさせてもらったよ」

「ふふんっ、おっちゃんはあたしの魅力にメロメロだったわね!」

「そうじゃのう、嬢ちゃんはかわいいからのう」

「ふへへーん!」


 リコリスが胸を張り、張り……

 そのまま、コテンと後ろにコケた。

 空中で転がるなんて、器用な真似をするなあ。


「そうして、儂はしばらくの間、二人の妖精と過ごしたのじゃ」

「なるほど」


 妙なところで縁が繋がっている。

 改めて、縁っていうものは不思議なものだなあ、と思った。


「ただ、いつまでも好意に甘えてはおれぬからな。旅立つ決意をしたのじゃが……そうしたら、嬢ちゃんの友達、ノノカ嬢ちゃんが、お礼に剣を作ってくれたのじゃよ」

「それが雪水晶の剣……?」

「うむ。とても見事な剣でな。このようなものをもらうわけにはいかぬと、しばらくの間、借りるだけにしておいたのじゃ」

「なるほど」

「それに、ただ強い剣というだけではないようでな」

「え?」


 それは、どういう意味だろう?

 武器としてではなくて、他になにか意味を持っているのだろうか?


 僕の疑問を察した様子で、ホルンさんは言葉を続ける。


「知っているじゃろうが、妖精が作り上げた武具はとても貴重なものじゃ。とても強い力を持ち、美術品として鑑賞できるほどの美しさを持つ。売れば、十年は遊んで暮らせるじゃろうな」

「でも……本当の価値はそこじゃない」

「ほう」


 思わずこぼれ出た言葉を聞いて、ホルンさんはおもしろそうな顔に。

 続きを、と視線で促されて、僕は思ったままを口にする。


「妖精は、人間に乱獲された過去がある。だから、人前から姿を消して、ひっそりと暮らしていた。仲は最悪」

「うむ」

「それなのに、人間のために妖精が剣を作った。それは……人間と妖精の友好の証にもなるんじゃないかな、って思いました」

「その通りじゃ」


 ホルンさんは昔を懐かしむように、遠い目をして言う。


「ノノカ嬢は、作りあげた剣を儂に渡す時、こう言った。これは私達の友好の証ですよ……と」

「……ノノカ……」


 友達の話を聞いて、リコリスがちょっと涙ぐんでいた。

 やっぱり、まだ色々と思うところがあるみたいだ。


「そうですか……雪水晶の剣は、人間と妖精の友好の証なんですね」

「うむ」


 そんな剣を、ホルンさんはどうして手放してしまったのか?

 まだ、いくらかの疑問が残っていた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 前話で「ノノカ」の名前が出てたはずなので、初めて聞いた、はおかしいです。
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