214話 新たなライバル
怖い。
反射的にそんなことを思ってしまう。
ソフィアは笑顔なのだけど、でも、ぜんぜん目が笑っていない。
ゴゴゴゴゴ、という音がするような感じで、妙な迫力がある。
「わぁ、綺麗な人」
ソフィアの様子に気づいているのかいないのか、ミントは呑気な声をこぼす。
花が咲いたように、にっこりと笑う。
そして、ソフィアに手を差し出した。
「こんにちは。私、ミントっていいます。あなたは?」
「……ソフィア・アスカルトです」
ミントの無邪気な笑顔に毒気を抜かれた様子で、ソフィアは素直に答えた。
そんな彼女の台詞を聞いて、ミントは目を丸くして……
「わぁ!」
再び笑顔の花を咲かせた。
「あなたがソフィアさんなんですね! あ、名前で呼んでもいいですか?」
「え? あ、はい。いいですけど……」
「ありがとうございますー、よろしくですー」
「えっと……」
ミントの明るい笑顔に困惑した様子で、ソフィアがこちらを見た。
どうすればいいの?
そう言いたいみたいだけど……
でも、僕に振られても困る。
ミントはふわふわとした性格で、なにを考えているのかよくわからないところがある。
昔も色々と振り回されたものだ。
「ふぅ」
僕から事情を聞くのを諦めた様子で、ソフィアはミントに視線を戻す。
「えっと……どうして私のことを知っているのですか?」
「フェイトの大事な人なんですよね?」
「え?」
「何度も何度もお話を聞いていましたよ。とても綺麗な子がいるんだー。一番大事なんだー。いつか結婚するって約束したんだー、って」
「ふぁ!?」
妙な声を発して、ソフィアは顔を真っ赤にした。
そして、たぶん、僕も顔を赤くしていて……
「ふぇ、フェイトがそんなことを言っていたのですか……?」
「うんうん。毎日のように、楽しそうに、幸せそうに言っていましたよー」
「はぅ」
照れていた。
ものすごく照れていた。
そんなソフィアに、ミントは、僕が昔どうこうしていたことをさらに語る。
何度もソフィアのことを口にしていたことを語り……
「ご、ごめんなさい!!!」
ついに耐えられなくなり、ソフィアはどこかへ逃げ出してしまった。
「あれ? どうしたんだろう?」
「ミント……今の褒め殺しというか、照れ殺し? わざとなの?」
「え? なんのこと?」
うん。
やっぱり、今も昔も、ミントは天然だった。
でも、それが懐かしくて……
ついつい笑みがこぼれてしまうのだった。
――――――――――
買い物を終えた後、家で合流した。
ミントも一緒で、久しぶりの再会を楽しむことに。
「お邪魔します」
「おう、ミントちゃんか。久しぶりだな」
「はい、久しぶりですー」
父さんとミントが笑顔で話をしていた。
聞けば、僕がいないと接点がなかったらしく、あまり話をしていないとか。
もうちょっと近所交流しようよ。
「しかし、フェイトもやるな」
「え、なにが?」
「ミントちゃんにソフィアの嬢ちゃん。二人も上玉を捕まえるなんてな」
「え? え?」
「で、どっちが本命なんだ?」
「「っ!?」」
父さんがそんなバカな発言をした瞬間、ソフィアとミントが、一瞬、目を光らせたような気がした。
「そ、それは……」
「それは?」
「……そ、そんなことよりも! 僕達はダンジョンの攻略をしないといけないから!」
「逃げましたね」
「逃げたねー」
「ヘタれね」
女性陣からの容赦のない口撃。
状況がよくわからないアイシャは、キョトンとしてて。
同じく、スノウは呑気にあくびをこぼしていた。
「ま、ダンジョンの攻略は明日にしとけ」
「まさか、父さんもそういう話をしたいの?」
「違う違う。ちと天気が悪いだろ? 今から出たら、たぶん、雨に降られるぞ。そうなるよりは、晴れの日に出た方がいいだろ」
「それは、まあ」
「それに、母さんももうすぐ帰ってくるからな。急ぎでないなら、まずは母さんに顔を見せてやれ」
「……うん」
確かに、父さんの言う通り母さんに顔を見せることは大事だ。
ずっと心配をかけていただろうし……
安心させてあげないと。
「で……本命はどっちなんだ?」
「父さん……その野次馬根性、どうにかしてよ」
困った父さんだった。




