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212話 なかなか難しい

 家族みんなでごはんを食べて……

 食後の紅茶を飲みつつ、談笑をして……


 それからスノウレイクにやってきた本題を果たすべく、父さんの仕事場へ。


 以前と変わらず、家の一階が店舗と鍛冶場になっていた。

 店舗は少し広くなっていたけれど、鍛冶場はなにも変わらない。

 僕の記憶にある通りだ。


 父さん曰く、全て考えられて配置されているから、少しでもものの場所が変わると感覚が狂ってしまうとのこと。


 そんな父さんに、折れてしまった雪水晶の剣を見てもらった。


「うーん……」


 剣を見つめることしばらく、父さんはなんともいえない声をこぼす。


「こいつはまた、綺麗に折れたな」

「どう? 直るかな?」

「おいおい、俺を誰だと思っている? 天才鍛冶職人エイジさまだぞ」

「それじゃあ……!」

「ただ、ちと難しいな」


 がくりと肩を落とす。

 持ち上げて落とすようなことを言わないでよ……


「ダメなの?」


 一緒に様子を見ていたリコリスが、静かに尋ねた。

 平静を装っているものの、やはり気になるのだろう。


「こいつは嬢ちゃんが作った剣かい?」

「ちょっと! 子供扱いしないでくれる? あたしは立派なレディーよ」

「おっと、すまないな。名前は?」

「リコリスよ!」

「そっか。じゃあ、改めてよろしくな、リコリス」

「ふふんっ、よろしくしてあげる。このリコリスちゃんと知り合いになれるなんて、なんて運の良い人間なのかしら。一生自慢できるわよ、ふふんっ」


 ドヤ顔を連発するリコリス。

 でも、父さんはまるで気にした様子がない。


 親となると、そういった心の余裕ができるのかな?

 見習いたいところだ。


「で、リコリス。こいつは、お前さんが作ったのか?」

「いいえ。あたしの友達が作ったものよ」

「そっか……ふーむ」


 父さんは顎の髭を指先で撫でつつ、考え込んでしまう。

 こうなると、しばらく戻ってこない。


「やはり難しいのでしょうか?」

「たぶん」


 普通の剣は、折れたりしたらそこで終わりだ。

 綺麗につなぎ合わせたとしても、折れた跡は必ず残り、強度に不安が出てしまう。

 刃こぼれならなんとかなるが、折れた剣を修復することは、ほぼほぼ無理だ。


 ……という話を、小さい頃に父さんから聞いた覚えがある。


「可能性はなくはない」


 長考の末、父さんはそんな答えを出した。


「えっ、本当に?」

「断定はできないけどな。あくまでも可能性の話だ」

「それでも、できるのならお願い!」


 ぐいっと前に出て、詰め寄るようにして頭を下げた。


 そんな僕を見て、父さんは苦笑する。


「おいおい、どうしたんだ? お前は、もっとおとなしいと思ってたが、いつの間にか男になってるじゃねえか」

「それは……だって、その剣はリコリスにとって、とても大事なものだから」

「……フェイト……」

「だから、直る可能性があるのなら、なんでもしたい。してみせるよ!」


 強く、強く言う。

 そうすることで、少しでもこちらの想いが伝わってほしいと願う。


「ホント、成長したな……」


 父さんは優しい顔をして、ぽんぽんと僕の頭を撫でた。


 成長したって言うのなら、頭を撫でるのはやめてほしいんだけど……

 でも、まあ。

 嫌な感じはしないし、むしろ、うれしいと思う。


「えっと……父さん、結局、どうなの?」

「ある素材があれば、おそらくだが、修理は可能だ」

「ある素材?」

「妖精が作った剣っていうのは、特殊でな。人が作るものと、かなり製法が異なるんだ。だから、刃が折れたとしても修理は可能だ。今まで以上に強くすることも可能だ」

「へえー」


 なんで、そこでリコリスが感心するのだろう?

 妖精の剣なのだから、妖精であるリコリスは知ってて当たり前だと思うんだけど……


 まあ、リコリスのことだから、忘れたとか、そもそも学んでいないとか、そんなところなのだろう。


「おじさま、とある素材というのは?」

「ミスリル、っていう鉱石だ。知っているか?」

「聞きかじりの知識ですが……ただの金属ではなくて、魔力を帯びている、とても珍しい金属だと」

「正解だ。魔力を帯びているから、妖精の剣とも相性が良い。絶対とは言えないが、うまくやれば修理することができるだろう」

「なら、そのミスリルを手に入れてくればいいんだね!?」

「落ち着け。ミスリルは、とてもレアな鉱石だ。そこらで手に入るようなものじゃないぞ」

「そうなんだ……」


 残念。

 店で売っているのなら、どれだけ高額だとしても、なんとかして買ってみせたのに。


「諦めるのはまだ早いぜ」


 まだ情報を隠していたらしく、父さんがニヤリといたずらっぽく笑う。


「少し離れたところにダンジョンがあってな。そこにミスリルが眠っている、っていう噂だ」

「本当に!?」

「誰かが入手した、っていう話は聞いてないから、噂が本当ならまだあるはずだぜ」

「よし!」


 喜びのあまり、ついつい手を上げてしまう。

 そんな僕を見て、ソフィアが微笑ましそうに笑う。


「ふふ、フェイトは、やっぱりフェイトですね」

「え? え? それは、どういう意味?」

「さて、どういう意味でしょう?」


 ソフィアはとても機嫌よさそうに、にっこりとするのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[良い点] レインの物語でガンツがミスリルの素材が無いので取りに行くというシーンですね。あの場面を彷彿としました。
[良い点] むむっ!これはレインのあのシーンを彷彿とさせますね! 貴方の小説を複数読んだ読者ならこう思ったはず!
[良い点] 少しずつリコリスが平常運転になってきたとこw [一言] 久々のダンジョン、楽しみにしてます!
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