210話 スティアート家
『黒鉄』。
そう呼ばれている鍛冶屋が僕の実家だ。
一階が武具の売り場と工房になっていて、二階に生活スペースが並んでいる。
それと、それなりに広い庭がセットに。
冬、父さんと母さんと一緒に雪だるまをたくさん作った思い出がある。
そんな思い出が詰まった家が……
「あれぇ!?」
思い切り変わっていた。
二階建てから三階建てへ。
さらに、家の敷地面積も倍くらいに。
「え? え? ……なにこれ?」
「我が家だぞ」
「我が家といわれても……リフォームをしたの?」
「ああ。ちと、必要に迫られてな」
「?」
どんな理由があったのだろう?
以前の家は決して広くないものの、父さんと母さんだけなら問題のないスペースが確保されていた。
築年数はそこそこ経っているけど、建て直しを必要とするほど古くはない。
それなのに、なぜ……?
「あらあら。懐かしい声が聞こえるかと思ったら……おかえりなさい、フェイトちゃん」
「あ、母さん!」
とても懐かしい声。
その優しい声を聞くだけで、ついつい涙が出そうになってしまう。
でも、それは我慢。
男として情けない。
代わりに笑顔を浮かべて振り返り……
「ただいま、母さうぇえええええ!?」
笑顔の挨拶は、途中で驚きの声に変わった。
アミラ・スティア―ト。
僕よりも背が低い。
おまけに童顔なので、父さんと並んで夫婦と言われると、ちょっと犯罪の匂いがしてしまう。
そんな母さんは、赤ちゃんを抱いていた。
首が座っているから、生後半年は経っているのだろう。
「え? え? え? えっと……その子は?」
「ルーテシアちゃんよ?」
いや、名前は聞いていないよ。
名前も大事だけど、今は、それよりも誰なのか、っていうことが気になるんだよ。
母さんは、相変わらずマイペースのようだ。
らしいところを見れて安心したのだけど、でも、やっぱり疑問の方が上だ。
「近所の子を預かっている、とか?」
「あらやだ。ダメよ、フェイトちゃん。自分の妹をそんな風に言うなんて」
「ご、ごめん。そんなつもりは……妹?」
「ええ、妹よ」
「その子が?」
「もちろん」
「……」
たっぷり、一分は思考が停止した。
そして……
「えええええぇーーーーー!!!?」
僕の驚きの声が街中に響き渡ったとかなんとか。
――――――――――
「おいおい、そんなに驚くことはないだろ?」
「驚くよ……」
あれから家の中に入り、改めて事情を説明してもらった。
僕がスノウレイクを出てしばらくは、父さんと母さんはいつも通りに暮らしていたらしい。
しかし、子供がいないことは寂しい。
なら、家族を増やしてしまえばいいのでは?
そんな極論に達したらしく……
まあ、色々とがんばったらしい。
結果、半年くらい前に妹……ルーテシアが生まれたらしい。
子供が生まれたことで、家の中が手狭に。
僕が帰ってきたら、とてもじゃないけれど部屋もスペースも足りない。
なので、思い切って改装したらしい。
「本当に思い切ったことをしたね」
「まあな。でも、こうしてフェイトが帰ってきた。しかも、べっぴんの嬢ちゃん達と一緒に」
父さんにべっぴんと言われ、ソフィアが照れていた。
「改装して正解だっただろう?」
「そうだけど……はぁ。相変わらず、父さんの行動力はすごいね」
思いついたことを、すぐに実行してしまうというか……
父さんは、ほぼほぼ考えないんだよね。
野生の勘のようなもので行動している。
それなのに、ほとんど失敗することがない。
色々な物事において成功を収めている。
そこは、素直にすごいと思う。
「ねえねえ、フェイトちゃん。色々とお話を聞かせてくれる?」
「どんな冒険をしてきたんだ?」
「あ……うん」
二人の笑顔は懐かしくて、温かくて……
今更だけど、ちょっと泣いてしまいそうになった。
その涙を我慢しつつ、僕は今までのことを話した。
奴隷にされていたことは心配をかけてしまうから伏せて……
ソフィアと出会ってからのことをメインに話をする。
その話は思いの外盛り上がり……
僕達は揃って夜ふかしをしてしまうのだった。