206話 防寒具
もしかしたら、僕の父さんが雪水晶の剣を修理できるかもしれない。
その可能性に賭けて……
次の目的地は、僕の故郷のスノウレイクに決まった。
そのために、まずは旅の準備をすることに。
食料や水。
馬車の手配。
そして、なによりも大事なのが……服だ。
服屋に立ち寄り、防寒具を探す。
スノウレイクは一年の半分以上が雪に包まれた場所なので、しっかりと準備をしないと風邪を引いて……
いや、下手したら凍死してしまう。
「フェイト、このようなものはどうですか?」
どこかウキウキした様子で、ソフィアは厚手のコートを自分の体に当てて、僕に見せる。
ふわふわのファーがついていて、とても温かそうだ。
丈も長く、膝までを覆う。
「うん、それなら防寒対策はバッチリだと思うよ」
「……そういう意味で聞いたわけではないのですが」
「?」
なら、どういう意味なのだろう?
「えっと……それと、手袋とブーツ。できれば、帽子も欲しいかな? 念を押すなら、中に着るシャツも新調しておきたいかも」
「スノウレイクは、それほどまでに寒いところなのですか? 私の記憶では、そこまでではなかったのですが……」
「ソフィアがいた頃は、数年に一度の温かい年だったんだ。普段のスノウレイクは、あの頃の数倍は寒いよ」
「……数倍……」
「ここ最近は、寒冷化が進んでいるみたいだし、しっかりと対策をしておかないとね」
「おとーさん」
くいくいっと、服を引っ張られた。
振り返ると……
「どうかな?」
コートを着て、ふわふわもこもこになったアイシャの姿が。
単にコートを着ているだけじゃない。
子供用のコートだからなのか、熊のきぐるみっぽい感じになっていた。
「「か、かわいい」」
僕とソフィアの声がぴたりと重なる。
「アイシャちゃん、かわいいです! すごくかわいいですよ!」
「はうっ」
ぎゅうっと、思い切り抱きしめられた。
アイシャはちょっと苦しそうにしていたものの、ソフィアの温もりを感じることができてうれしそうだ。
尻尾がぶんぶんと横に振られている。
「おとーさん」
「うん、すごくかわいいよ」
「えへへ」
素直な感想を口にすると、アイシャは頬を染めてはにかむ。
天使かな?
「ふっふーん、ここで真打ち登場ね!」
ふと、リコリスの声が聞こえてきた。
振り返ると……
「どうよ!? このミラクルワンダフル妖精、リコリスちゃんのかわいらしさに昇天なさい!!!」
「「……」」
僕とソフィアは沈黙して、
「毛玉?」
アイシャは、こてんと小首を傾げた。
アイシャが言うように、毛玉が宙に浮いていた。
いや、毛玉じゃない。
よくよく見てみると、毛玉から羽が生えていた。
たぶん、中にリコリスがいるのだろう。
「えっと……リコリス?」
「ええ」
「なに、それ?」
「見ての通り、防寒具よ! かわいいでしょ?」
「かわいい……のかな?」
羽の生えた毛玉。
かわいいと言えなくもないけど……
どちらかというと、シュールさの方が勝っているような?
「なんでそんなことになっているの?」
「だって、この店、妖精用の防寒具が置いてないんだもの。だから、捨てる予定の羽毛をもらって、自分でなんとかしたっていうわけ。ドヤ!」
リコリスとしては会心の出来なのだろう。
でも、それは毛玉と呼ぶ以外の何者でもなくて……
うん。
リコリスって、ちょっと残念だったんだね。
「リコリスの防寒具は、あとで私が作ってあげますね。大丈夫ですよ。花嫁修業の一貫として、裁縫は習っていましたから」
「え? なんで、妙に優しい顔をしているの?」
「ふふ、なんでもありませんよ」
「その笑顔はなに!? なんなのぉーーー!?」
納得いかないというようなリコリスの声が店内に響くのだった。




