表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
206/520

205話 意外な名前

「ねえねえ、今日のお昼はどうするの? あたし、はちみつたっぷりのパンケーキが食べたいわ。もちろん、フルーツとクリーム盛り合わせのヤツね」


 翌日。

 街に出たのだけど、リコリスはいつも通りだった。

 お昼のことを考えているらしく、目をキラキラさせつつ飛んでいる。


 本当に落ち込んでいるのかな?

 と、ちょっと疑問に思ってしまうくらいだ。


 でも……

 たぶん、これは空元気。

 長く一緒にいるから、それくらいはわかる。


 本当の元気を出してもらえるように、がんばらないと。


「お昼の話は後です。それよりも先に、武具店に向かいましょう」

「あ、フェイトの剣を新調するの?」

「いいえ。修理できないか相談してみます」

「んー……それ、無理だと思うけどなー」


 ……そんなリコリスの言葉は的中して。


「すまないな、これは俺の手に余るよ」


 武具店に移動して、雪水晶の剣の修理をお願いしてみるものの……

 返ってきた言葉はそんなものだった。


「こいつは妖精が作った剣だろう?」

「よくわかりましたね」

「妖精が作った剣は特別だからな、見ればわかるさ。それに、あんたらは妖精と一緒に行動しているからな」


 そうだった。

 リコリスと一緒のところを見れば、だいたいのことはわかるか。


「そういえば……」


 雪水晶の剣って、どれくらいのレア物なんだろう?

 あまり深く考えることなく使っていたから、よくわからない。


 そんな僕の疑問を察したらしく、ソフィアが説明してくれる。


「妖精が作る剣というのは、かなりのレア物ですよ。切れ味は鋭く、耐久性も抜群。人が作る剣では、その域に到達できないと言われていますね」

「そんなにすごい剣だったんだ……」

「聖剣と比べると格は落ちてしまいますが、それでも、十分すぎるほどの力を持っていますよ。それに造形美にも優れているので、観賞用として取り引きされることもあります。多少の差はありますが、一本で数年は遊んで暮らすことができる額になりますね」

「ふふんっ」


 なぜかリコリスが得意そうにしていた。


「その嬢ちゃんの言う通り、妖精の剣は、俺ら人には手の余る代物でな。技術が追いつくには、あと百年はかかるって言われている。だから……」

「修理することは難しい?」

「そういうことだ」

「そうですか……」


 がっくりと肩を落とした。


 どうにかして修理をしたかったのだけど、それは難しいという。

 このまま諦めるしかないのかな……?


「まったく……ほら、フェイト」


 スノウの頭の上に乗っていたリコリスがふわりと飛んで、僕の頭の上に移動した。

 そして、ぺちぺちと僕の頭を叩く。


「いたっ、いたっ!?」

「何度も言ってるでしょ。気にするんじゃないわよ」

「でも……」

「でももなにもないわ。あたしがいい、って言っているの。そもそも、剣なんだから、いつか壊れて当たり前なのよ」

「そうだけど……」

「観賞用として飾られるわけじゃなくて、戦いの中で、武器としての使命をまっとうすることができた。きっと、雪水晶の剣も満足だったわよ」

「……そうかな?」

「そうよ」


 言い切るリコリスからは迷いがない。


 寂しいと思っているみたいだけど……

 でも、これでいいと、迷いはないみたいだ。


 リコリスは強いな。

 僕は、それでも、どうにかできないものかと未練がましく考えてしまう。


「なんだい、なにか特別な縁がある剣なのか?」

「はい、少し……」

「そっか。そういうことならなんとかしてやりてえが、さすがに妖精の剣は手に余るからな……」


 そうやって考えてくれるところを見ると、良い人なのだろう。


 ……これ以上は迷惑をかけるべきじゃないかな。

 リコリスがいいと言ってくれている。

 それに、修理する方法がわからない。


 こだわり続けたら、わがままになってしまう。

 そんなことになる前に、僕も気持ちを切り替えないといけないのかも……


「……あぁ、そうだ」


 ふと、武具店の店主が思い出したように言う。


「確証はないが、もしかしたらなんとかできるかもしれん」

「本当ですか!?」


 もしかしたら。

 曖昧なものだとしても、可能性があるのだとしたら、なんとかしてみたい。


「こいつは俺の手に余るが、他のヤツならなんとかなるかもしれん」

「あちらこちらの武具店を回れば……?」

「それは時間を無駄にするだけだな。超一流の……いや。さらにその上をいく、神業の鍛冶屋なら、なんとかなるかもしれない。そういうヤツが妖精の剣を修理したことがある、っていう話を聞いたことがある」

「ほ、本当ですか!?」

「こんなことでウソは言わないさ」


 やった!

 まだ確証はないし、その鍛冶屋を見つけることができるという保証もない。

 それでも、わずかな光が見えてきた。


「その鍛冶屋について、心当たりはありませんか?」

「噂を聞いたことくらいしかなくてな……」


 ソフィアの問いかけに、難しい顔をした。


「ただ、『武具の神さまに愛された男』って呼ばれているらしいぜ」

「え」


 ついつい反応してしまうと、ソフィアが怪訝そうにこちらを見た。


「フェイト、知っているのですか?」

「う、うん……」


 その呼び名は……


「父さんがそう呼ばれていた」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
[一言] 今度はソフィアがフェイト家にご挨拶ですな☆
[気になる点] とうとうフェイト君の血筋が明かされるか? [一言] フェイト達、実家へ帰るってよ
[一言] フェイト、突然エリート家系説
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ