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204話 ごめんなさい

「ごめんなさい」


 宿の部屋で、僕はリコリスに頭を下げていた。

 その手前には、折れてしまった雪水晶の剣が。


 この剣は普通の剣じゃない。

 リコリスの友達が残した剣だ。


 だから、とても大事なもの。

 それを譲り受けておきながら、こんな風に折ってしまうなんて……

 リコリスとその友達に申しわけなくて、頭を下げることしかできない。


「あー……折れちゃったか」


 リコリスの声のトーンは、わりと平坦なものだった。


「……おうおうおう、兄ちゃんよぉ、どうしてくれるんや?」


 突然、リコリスの口調と声のトーンが変わった。

 驚いて顔を上げると、こちらにガンを飛ばすリコリスが目の前に。


「こいつはなぁ、金貨数千枚の価値がある名剣なのさ。それを折るとか、あぁん、どう弁償してくれるってんだ? おうおうおう?」

「ご、ごめんなさい……?」

「ごめんで済んだら騎士はいらねえんだよ、おうおう。へへ、金がねえならそこの女で代わりに楽しませてふぎゃあ!?」


 ソフィアのげんこつが落ちた。

 ガンッ、といい音がしたけど、大丈夫だろうか……?


「地上げのようなことをしないでください。アイシャちゃんの教育に悪いです」

「うー……ちょっとした冗談じゃん」


 頭を押さえて涙目になるリコリスはいつも通りで……


「えっと……リコリスは怒っていないの?」

「は? なんでよ?」

「だって、僕が雪水晶の剣を折っちゃって……」

「なんで、それくらいで怒らないといけないのよ。適当に遊んで叩き折ったとかなら怒るかもしれないけど、そうじゃないでしょ? フェイトはフェイトにできることを精一杯やって、それで、魔剣と相打ち? になる形で剣が折れた。悪いことなんてなーんにもないわ」

「でも……」

「ほら、シャキっとしなさい、シャキっと。あたしは気にしてないんだから」

「……」

「じゃ、あたしはお風呂に入ってくるわ。覗くんじゃないわよ?」


 ひらりと飛んで、リコリスが部屋を出ていった。


 その背中を見送り……

 僕は、軽い吐息をこぼしてしまう。


「気にしてないとか……それ、ウソだよね」


 適当に遊んで折ったのなら怒る……リコリスは、そう言っていた。

 つまり、それだけの思い入れがあるということ。

 気にしていないなんて言葉は、僕を気遣っているだけにすぎない。


「はぁ……」


 落ち込む。

 凹む。


 リコリスにはいつも助けられているのに、その恩を仇で返すような真似をして……

 そして、落ち込んでいるリコリスに対してなにもできない。


 僕は、僕が情けない。


「フェイト!」

「いたっ」


 パシン、と背中を叩かれた。


 驚いて振り返ると、眉を吊り上げたソフィアが。


「そうやって思い悩むのは、フェイトがとても優しいからですが……しかし、今は落ち込んでいる場合ではありません」

「でも……」

「過ぎたことはどうしようもありません。どれだけの力を持っていたとしても、過去を変えることはできません。それなら、未来に目を向けるべきでは?」

「……ソフィア……」

「これからのことを考えましょう。大丈夫です。フェイトは一人ではありません、私がいます。いつまでも、ずっと一緒にいます」

「おとーさん、わたしもいるよ?」

「オンッ!」


 僕を支えるかのように、アイシャもそう言ってくれた。

 スノウも隣に寄り添ってくれた。


 ……うん。

 僕は、なんて幸せ者なんだろう。


「そうだね。落ち込んでいる場合じゃないね」


 そもそも、本当に辛いのはリコリスだ。

 それなのに僕が落ち込んでいても、なにも意味はない。


 この事態を招いたのは僕なのだから……

 最低限、僕は、なんとかしようという気概を見せないといけない。


「がんばって、なんとかしないといけないね」

「その意気です」

「おとーさん、がんばって」


 にっこりと笑うソフィア。

 ぐっと小さな拳を握り、応援してくれるアイシャ。

 そんな二人を見ていたら元気が出てきた。


 うん。

 今なら、なんでもできそうだ。


「どうにかしたいけど、どうすればいいのかな……?」


 考える。

 考える。

 考える。


 ……考えすぎて頭がクラクラしてきた。


「うぅ、知恵熱が出そう」

「ふふ、フェイトったら」

「おー?」

「もっとシンプルに考えればいいのではないですか? 幸いというべきか、刀身が折れただけ……と」

「鍛冶はよく知らないけど、刀身が折れるのって、けっこう致命的だと思うんだけど……」

「ですが、剣を極めた剣聖がいるように、鍛冶を極めた方もいると思います。そういう方なら、修理も可能なのでは?」

「そっか……うん、そうだね。もうダメだ、って勝手に諦めないで、ひとまず色々なところに相談してみようか」

「はい。もちろん、私もお手伝いしますからね」

「わたしもがんばるよ」

「オンッ!」

「ありがとう、みんな」


 僕は、大事な家族達をまとめてぎゅうっと抱きしめた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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