201話 帰ろう?
振り返ると、リコリスを頭に乗せたアイシャの姿が。
どうしてここに!?
慌ててリコリスを見ると、目が合い、ごめんごめんというジェスチャーをされる。
文句を言おうとして……
でも、リコリスがぽんぽんとアイシャの頭を叩いた。
「この子を信じてあげなさいよ」
そう言われたら、もうなにもできない。
僕達がスノウのことを心配しているように、アイシャも気にかけている。
どうにかしたいと思っている。
そんな当たり前のことを忘れていた。
「っ」
今すぐ駆け出して、安全なところに避難させたい。
でも、それが正しい選択とは限らない。
僕がやるべきことは、アイシャを見守ることだ。
「スノウ」
アイシャは一歩、前に出てスノウに近づいた。
頭の上のリコリスがビクリと震えて、怯えたような気がするが……
まあ、それは見なかったことにしておく。
「ウゥ……!」
「大丈夫だよ」
スノウは威嚇するが、アイシャは逃げない。
怯えることもない。
いつもの優しい顔をして、おいでというように両手を広げる。
そんな彼女を見て、スノウの方が怯えるように、一歩下がる。
アイシャはなにもしていない。
ただ、いつものように微笑んでいるだけ。
それなのに、スノウが気圧されていた。
「ガゥ……ウウウゥ……!?」
スノウが苦しんでいた。
たぶん、己の破壊衝動と戦っているのだろう。
理由はわからないけど、今のような姿になって暴走してしまい、なにもかも壊してしまいたいという衝動に駆られた。
それはアイシャも例外ではなくて、彼女に牙を突き立てようとした。
でも、そんなことはしたくない。
絶対にしたくない。
そんな良心が戦っているらしく、スノウが苦しそうにする。
「がんばって」
アイシャはさらに距離を詰めた。
もう目と鼻の距離にスノウがいる。
大きくなったスノウを見上げて……
にっこりと笑う。
「帰ろう?」
「アァアアアアア……!!!」
スノウが吠えて……
「スノウ」
アイシャは、そっとスノウに触れた。
瞬間、光があふれた。
「うっ……な、なんですか、これは!?」
「わからないけど、でも……」
嫌な感じはしない。
むしろ、温かくて心地よくて……
この光を浴びていると、とても優しい気持ちになることができた。
「ん」
光の源はアイシャだ。
なにが起きているのかさっぱりわからないけど、アイシャが輝いていた。
髪がゆらゆらと揺れて……
尻尾がふわりと揺れて……
そんな中で、白銀の光を放っている。
膨大な魔力があふれている?
いや、でも魔法という感じはしない。
リコリスもなにが起きているかわからないらしく、ぽかんとしていた。
「スノウ、帰ろう?」
「……クゥン」
すごい。
スノウが少しずつ小さく……元の大きさに戻っていく。
黒くなっていた毛も、元の銀色に戻っていく。
「これ……アイシャがやっていることなのかな?」
「わかりません……」
僕とソフィアは、もう、呆然とするしかない。
人智を超えた現象と言っても過言じゃないと思う。
そして……
「オンッ! ハッハッハッ……!!!」
「ふふ、よしよし」
元の姿に戻ったスノウは、母親に甘えるかのように、アイシャの胸に飛び込んだ。
アイシャは、小さな子犬をしっかりと受け止めて……
とびっきりの笑みを浮かべるのだった。




