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200話 家族

「スノウ!!!」

「ウゥウウウウウ……」


 スノウが迷うような唸り声をこぼす。


 こちらを見て、いつものような甘える目をして……

 しかし、すぐ狂気に飲まれてしまい、殺意を宿す。


 その繰り返しで、一気に情緒不安定に陥った。


 説得できる可能性が生まれたことはうれしいことだけど、でも、情緒不安定というのは困る。

 今以上に暴走する確率が増えたようなもので、あまり好ましくない。


 どうにかして、正気に戻ってほしいのだけど……


「……フェイト」


 ソフィアは厳しい表情をして、聖剣を握りしめた。


「いざという時は……スノウを斬ります」

「ソフィア!?」

「常識はずれの再生能力があったとしても、今はまだ、能力的に不完全な様子。今ならまだ、斬ることができます」

「ダメだよ、ソフィア! 相手はスノウなんだよ? それなのに……」

「スノウだからこそ、です」


 ソフィアは強い決意を宿した顔で言う。


「大事な家族だからこそ、これ以上の暴走を許すわけにはいきません。そんなことは、スノウ自身が望まないでしょう。他の人を傷つけることなんて、したくないと思っているでしょうし……もしも、アイシャちゃんを傷つけるようなことがあれば?」

「それは……」

「そのようなことになれば、スノウ自身が深く後悔するでしょう。自分を責めるでしょう。だから……そのようなことになる前に、覚悟を決めないといけません」

「それは……わかる、けど……」


 ソフィアの言っていることは、圧倒的なまでの正論だ。

 正しさしかなくて、反論なんてできない。


 短い間だけど、一緒にいてわかったことがある。

 スノウはとても優しい子だ。

 アイシャのことが大好きで、僕達にも懐いてくれている。

 人を傷つけるなんて望んでいないし、ましてや、アイシャを傷つけるなんて絶対にしたくないはずだ。


 だから、そんなことになる前に……


「……ダメだよ! ダメだ、絶対にダメだよ!」

「フェイト?」


 ソフィアが正しいことはわかる。

 わかるけど……でも、心が納得してくれない。


 僕らは道具じゃない、人間だ。

 理屈だけで納得するものじゃなくて、心がある。

 それを無視していたら、人である意味がないじゃないか。


「スノウを斬っても、なにも救われないよ。終わりになるだけで、なにも始まらないよ」

「ですが、元に戻す方法がわかりません。これ以上の被害を出す前に、最悪の事態になる前に……」

「嫌だ」

「フェイト、聞き分けてください。戦場では、時に冷酷な決断を下す必要があります。そして、ここはもう戦場です。スノウに私達の声は届いているかもしれません。しかし、元に戻すことは難しく……ならばもう、後の選択肢は一つしかないじゃないですか」

「それでも、嫌だ」

「フェイト!」

「僕は!!!」


 強く言うソフィアに対抗して、僕も声を大きくした。

 今までにない様子に、ソフィアは気圧されたらしく言葉を止める。


「家族を見捨てるなんてこと、絶対にしたくないんだ」

「……フェイト……」

「そんなことをしたら、もう笑えないよ。幸せになんてなれないよ。僕は、ソフィアと一緒に幸せになりたい。でも、今は少し変わっていて……アイシャやリコリス。そして、スノウも……みんな一緒に、家族で幸せになりたいんだ。誰か一人でも欠けるなんてダメなんだ。そうやって幸せを掴むために、僕は強くなりたいと願ったんだ……だから、だから僕は……!!!」

「……すみませんでした」


 ソフィアに優しく抱きしめられた。


「そうですね、フェイトの言う通りですね。ここでスノウを斬ってしまえば、私達は、もう二度と笑えないでしょうね……そもそも、こんなに簡単に諦めるべきではありませんね」

「ソフィア!」

「あがいてあがいて、失敗してもあがいて……最後まで諦めることなく、あがき続けましょう!」

「うん!」


 一緒に剣を構えて、再び暴走するスノウを迎え撃つ。


 行動不能に陥らせるために、致命傷は避けて、足などへ攻撃を繰り返して……

 合間に何度も呼びかける。

 家族の名前を口にする。


「ウゥ……オォオオオオオ、グルァアアアアアッ!!!?」


 三十分ほど交戦を続けて、少しずつスノウの様子が変わってきた。


 暴走は続いている。

 でも、攻撃をためらうような場面が増えてきた。

 なにかを思い出すかのように、僕達をじっと見つめる機会が増えてきた。


「これなら、いけるかもしれないね!」

「ですが、あとひと押しが……」


 ソフィアの言う通り、決定打が足りない。


 少しずつだけど、スノウは正気に戻ってきている。

 攻撃が減っていることがその証拠だ。


 ただ、未だ暴走は続いていて……

 それに、元の子犬サイズに戻す方法もわからない。


 絶対に諦めない。

 諦めないのだけど、このままだとまずい。


 ただ単にあがくだけじゃなくて、解決策を見つけるために考えていかないと。

 どうする?

 どうすればいい?


 ……そうやって考えていたせいで、隙が生まれてしまう。


「ガァッ!」

「しまっ……!?」


 一瞬の隙を突かれてしまう。

 スノウの巨体が目の前に迫り、鋭い牙が迫る。


 防御は間に合わない。

 回避も不可能。


 これは……


「スノウっ!!!」


 その時、アイシャの声が響いた。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
― 新着の感想 ―
主人公がワガママすぎると思います。正直段々面白くないって感じてきています。
[一言] 200話突破おめでとうございます!!
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