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198話 一手が足りない

「グルルルゥ……!」


 スノウが起き上がり、怒りに満ちた目をこちらに向けてくる。

 ソフィアの乱入は予定外だけど、十分にヘイトを稼ぐことができた。


「ソフィア、背中を向けて浜辺の方まで逃げるよ」

「えっ、逃げるのですか?」

「うん。今の状態なら、背中を見せて逃げれば、喜んで追いかけてくると思う。逆に下手に立ち向かうと、警戒して逃げられるかも」


 野生の動物と同じだ。

 獲物が自分より格下と判断したのなら、徹底的にやる。

 自分と同等か上と判断したら、撤退も考える。


「なるほど、魔物もそのような習性があるのですね。さすがです、フェイト」

「奴隷時代に学んだものだから、なんだかんだで、あの時の経験が活きているみたい」


 人生、どんなことが役に立つかわからない。


「でも、ソフィアは知らなかったの?」

「私の場合は、全て斬り伏せてしまえば済んでいたので」

「さ、さすがだね……」


 剣聖だからこそ、そんなことができるのだろう。


 たぶん、ソフィアの中に撤退の二文字はない。

 代わりにあるものが、殲滅か追撃、とかかな?


「浜辺まで誘導するよ」

「はい」


 背を向けて逃げると、予想通りスノウが追いかけてきた。


 逃さない。

 この牙を突き立ててやる。


 そんな感じで、殺意たっぷりだ。


 うまく誘導できたことは予想通り。

 でも、予想外のこともあって……


「は、はや!?」


 歩幅が圧倒的に違う。

 それだけじゃなくて、これだけの巨体なのに、しなやかに動くことができる。


 予想以上の速度で、浜辺まで誘導する前に捕まってしまいそうだ。


「フェイト!」

「あっ」


 ソフィアが手を引いてくれた。

 グンと加速することができて、スノウよりも速く駆けることができた。


「ありがとう、ソフィア」

「いえ、どういたしまして」


 とはいえ、これは大変だ。

 無理矢理走らされているようなものだから、足が追いつかなくて、転んでしまいそうになる。


 でも、我慢。

 気合でなんとか乗り切る。


 そして……


「見えた!」


 浜辺に到着した。

 不幸中の幸いというべきか、暴徒の事件で避難が行われていたらしく、遊泳客はゼロだ。

 浜辺を管理する冒険者が数人、残っているだけ。


「な、なんだ、あんたらは?」

「細かい話は後! 今すぐ、ここから逃げて!」


 強く言いながら、後ろから迫るスノウを指差した。

 冒険者達は一斉に顔を青くして、慌てて逃げ出す。


 スノウがそちらを追いかけないか心配だったけど、杞憂に終わる。

 第一ターゲットは僕達みたいで、まっすぐこちらに突撃してきた。


「フェイト、いきますよ」

「うん!」


 アタッカーはソフィア。

 僕はサポートだ。


 まだまだ圧倒的な実力差があるため、彼女がアタッカーを務めるのは当たり前。

 ただ、いくらソフィアでも、スノウのような相手と戦うのは初めてだろう。

 細かいところでミスが出るかもしれない。

 それをフォローするのが僕の役目だ。


「ガァッ!」


 スノウが吠えて、突撃をしてきた。

 その巨体を活かして、そのまま轢き潰してしまおう、という考えなのだろう。


 でも、甘い。


 ただの突撃なんて、ソフィアに通じるはずがなくて……

 ソフィアはミリ単位で攻撃を見切り、回避。

 同時にカウンターを叩き込む。


 スノウが悲鳴をあげて転がる。

 鉄のような毛で覆われているが、ソフィアの聖剣を防ぐことはできなかったみたいだ。


「ふふ、やりましたね」


 機動力を奪うことができて、ソフィアは満足そうに言う。


 だけど……


「ソフィア、まだだよ!」

「え?」


 スノウがゆっくりと立ち上がる。

 ソフィアにつけられた傷は、時間が逆再生するかのように急速に癒えていく。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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