196話 神話との戦い
スノウは見上げるほどに大きい。
それなのに動きは速く、風のように動いている。
暴れまわっているだけで、明確な攻撃はしていない。
それなのに、冒険者と騎士達は蹴散らされている。
建物が崩れ、噴水などが踏み潰されている。
「これ、どうにかしないと……!」
こんなところで戦えば、周囲にどれだけの被害が出るか。
スノウをうまく止められたとしても、街が半壊したら意味がない。
「まずは注意を引きつける!」
タイミングを図り、前に出た。
強く強く、剣の柄を握り……
「破山っ!!!」
一番使い慣れていて、一番威力があるだろう技を繰り出した。
やりすぎてしまわないか?
という心配はない。
ゼロだ。
むしろ、これじゃあ足りない。
もっともっと強い攻撃を繰り出さないと、今のスノウに届くことはないと感じている。
その感覚は正しくて……
刃はスノウの毛を切ることもできず、鈍器で叩くような結果に終わる。
「グルルルッ……!」
刃は通らなかったけれど、衝撃は伝わったらしい。
それなりのダメージも与えられたらしく、スノウが怒りに満ちた目でこちらを睨む。
よし。
うまいこと注意を引くことができた。
「こっちだよ!」
「ガァッ!」
獣や魔物を前にした時、一番やってはいけないのは背中を見せることだ。
そんなことをしたら、これ幸いと追いかけて攻撃してくる。
奴隷時代の経験で、そんなことを学んだ。
スノウも例外ではないらしく、勢いよく追いかけてきた。
このまま、街の外まで誘い出したいところだけど……
「は、速い……!?」
歩幅の差が圧倒的に違う上に、風のように速く動くことができる。
こうして敵を引きつけることは何度もやっていたから、それなりの自信があったんだけど、すぐに追いつかれてしまう。
スノウが前足を使い、僕を薙ぎ払おうとする。
体を逸らすようにして、なんとか回避。
目の前をスノウの前足が通り抜けていって……
ゴォッ! という風が吹き荒れる。
直撃していたら……と、ゾッとする。
「このっ!」
カウンターで剣を叩き込む。
刃が通らないことは確認済みなので、横にして、鈍器のように使う。
ギィンッ!
鉄を叩いたような感触と音。
毛だけじゃなくて、体も固いらしい。
ただ、小さいながらもダメージは受けている様子で、スノウは再び怒りに吠えた。
うまい具合にヘイトを稼ぐことができている。
それは良いことなんだけど……
「これ、どうやって街の外まで誘い出せば……うわっ!?」
逃げる。
しかし、すぐに追いつかれてしまう。
その繰り返しで、なかなか進むことができない。
このままだと被害が拡大する一方だ。
それに、スノウの攻撃はとても強力で速い。
何度も何度も避けられるかどうか。
「……ううん、ダメだ。弱気になったらいけない」
泣き出しそうなアイシャの顔を思い出した。
アイシャにあんな顔は似合わない。
やっぱり、笑顔が一番だ。
その笑顔を取り戻すために、僕は、できることを全力でやらないと!
諦めたり絶望したり、そんなことをしているヒマはない。
「はぁっ!」
攻撃と撤退。
それを交互に繰り返しつつ、少しずつだけどスノウを砂浜の方へ誘い出していく。
今のところ順調だ。
スノウの注意は僕に向けられていて、街に対する被害も最小限に押さえられている。
問題があるとすれば、僕の体力だろうか。
まだ十分も経っていないのに、息が切れ始めていた。
この状態のスノウと戦うことは、それだけ体力の消費が激しい。
そして……それがミスを誘う。
「ガァアアアッ!!!」
「しまっ……!?」
石を踏んでしまい、わずかに動きが止まってしまう。
その隙は逃さないというように、スノウは吠えつつ、前足を叩きつけてきた。