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192話 さらなる悪化

 街へ戻ると、僕は言葉を失う。


 ライラさんも似たような感じで、顔を青くしていた。

 アイシャは震え、すがるようにスノウを胸に抱いている。


「こんな……」


 ライラさんを助けるために、街から離れた時間は三十分くらいだ。

 たったそれだけの間に、状況はさらに悪化していた。


 暴徒の数は倍以上に。

 冒険者と騎士団が必死に鎮圧を試みるものの、いかんせん、数が多すぎる。


 暴徒を鎮圧することができず、逆に押されていた。

 このままだと、下手したら負けてしまう。


 そうなれば、どうなるか?


 今は冒険者と騎士団が奮闘することで、なんとか被害は最小限で済んでいるみたいだ。

 でも、その防波堤がなくなれば……

 想像するだけで恐ろしい。


「この!」


 とにかく数を減らすしかない。

 近くの暴漢を打ち倒す。


「リコリスちゃん、ミラクルサンダー!」


 リコリスも協力してくれて、魔法で暴漢を撃退してくれた。


 でも、アリのように、暴漢は次から次に現れて……

 いったい、どれだけの数が!?

 どれだけの魔剣が流通しているんだ!?


 これはもう、戦争に近い。

 街が自力で対処することは不可能だ。

 王都の騎士団に協力を要請しないと……


「……いや。これだけの騒ぎだ。要請はもうしているよね」


 王都の騎士団は、数も練度も桁違いだ。

 彼らが到着すれば、どれだけの魔剣が流通していたとしても、制圧できるはず。


 問題は時間。

 王都は隣にあるわけじゃないから、当然、移動に時間がかかる。


 数日……あるいは、一週間。


 無理だ。

 それだけの間、保たせるなんて不可能だ。


 ソフィアがレナを捕まえることに期待したいけど……

 でも、彼女に頼ってばかりじゃダメだ。

 僕も、自分にできることをしないと。


「やっぱり、一人一人、数を減らす!」


 小さな一歩を積み重ねれば、いずれ目的を達成できるはず。

 そう信じて剣を振る。


「フェイトってば、めっちゃやる気ねー。普通、こんなになったら諦めるか逃げるけど」

「ダメだよ。ソフィアが戦っているのに、僕だけそんなことするわけにはいかないよ」

「ふふーん、仕方ないわね。リコリスちゃんも付き合ってあげる」

「ありがとう」


 リコリスがとても頼もしい。

 彼女と一緒なら、なんとかなるかもしれない。


 ……しかし、予想外の方向から事態が悪化する。


「スノウ?」


 ふと、アイシャの心配そうな声が聞こえてきた。

 二人の暴漢をまとめて斬り伏せて、安全を確保した後、アイシャのところまで後退する。


「アイシャ、どうしたの?」

「おとーさん……スノウが、スノウの様子がおかしいの!」

「ウゥゥゥ……」


 見ると、スノウは小さく震えていた。

 極寒の地にいるかのような反応で、体調が悪そうだ。


「スノウは、いつからこんなことに?」


 ライラさんの家にいた時は、元気だったはずなのだけど……


「よくわからないけど……街に戻ってきたからだと、思う」

「なんだろう……?」


 街の雰囲気にあてられた?

 犬は感受性が豊かって聞くし、そんなこともあると思う。


 でも、いくらなんでも体調が悪化しすぎだ。

 スノウはとても苦しそうにしていて、雰囲気に酔ったわけではなさそうだ。


「ライラさん、スノウの体調不良について、なにかわかりませんか?」

「んー、私は獣人の専門家で獣医じゃないんだけど……ちょっとまってね」


 困った顔をしながらも、ライラさんはスノウを診てくれる。

 なんだかんだで優しい人だ。


「変な病気に感染した? いや、それにしては発症が早すぎるから違うか。ってことは、怯えているせいで心に異変が……でも、ちょっと悪化しすぎよね。うーん、うーん」


 ライラさんもわからないらしい。


「ウゥ……グゥウウウ……」


 スノウはとても苦しそうだ。


 いったい、なにが起きているんだろう?

 なんとかしたいけど、でも、どうすればいいかわからない。


 暴漢なら叩き伏せればいいんだけど……

 でも、病気や怪我だとしたら、どうやって治療すれば?


「あっ……リコリス!」

「あ、あたしに振られても困るんだけど」

「治癒魔法とか使えないの?」

「使えるけど、初級のものだから、簡単な怪我を治すだけよ。見た感じ、スノウは怪我してないし……」


 途中で、はて? というような感じでリコリスが小首を傾げた。


「あれ、なにかしら? なんか、これ、見覚えがあるような……?」

「本当に!? スノウは、どうなっているの?」

「が、がっつかないでよ! 見覚えがあるだけで、ハッキリとしたことはわからないし……っていうか、ものすごく嫌な予感がするんだけど」

「嫌な予感?」

「うまくいえないんだけど、このままにしたら、とんでもないことになっちゃうような……っていうか、もう手遅れのような……そんな感じ?」


 本当になにを言いたいかわからない。

 でも、良いことではなさそうだ。


 ……そんなリコリスの言葉が的中するかのように、最悪の事態が訪れてしまう。


「ガァッ!」

「スノウ!?」


 突然、スノウが鋭く吠えて、アイシャの腕から抜け出した。


 スノウは、初めて見るような強い圧を放つ。

 目を血走らせているところを見ると、正気を失っているみたいだ。


 そして……

 どこからともなく現れた黒い霧がスノウに吸い込まれていき、綺麗な銀の毛が黒に染まっていく。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新作を書いてみました。
【おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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