187話 聖剣と魔剣
砲弾のようにレナが突撃してきた。
速い。
ソフィアはわずかに驚きつつ、しかし、冷静に魔剣を受け止めてみせる。
ギィンッ!
二つの刃が交差して、甲高い音が響いた。
続けて、衝撃波。
レナの力はあまりにもずば抜けている。
受け止めただけで、コレだ。
もしも直撃していたら、骨まで断たれ、簡単に両断されていただろう。
魔剣の使い手。
黎明の同盟の幹部。
どの程度の実力者なのか、様子を見ようと考えていたが……
そんなことをしていたら、すぐにやられてしまうだろう。
手加減なし。
ソフィアは最初から全力で挑む。
「神王竜剣術・壱之太刀……破山っ!」
魔剣ごとレナを叩き切るつもりで、聖剣を振り下ろした。
レナは魔剣をしっかりと両手で握り、受け止める刃の角度を調節。
必要最小限の負担で聖剣を受け止めて、衝撃を上手に逃してやる。
「くっ、やりますね」
「君もね」
剣を押し合う形になり、至近距離で二人は笑う。
ソフィアにとって、レナは絶対に見逃すことができない敵だ。
フェイトにちょっかいをかけているだけではなくて……
とんでもない惨事を引き起こした。
可能なら捕まえて、洗いざらい全てを吐かせたい。
それができないのならば、ここで斬る。
それだけの覚悟を持って挑んでいる、許すことのできない敵だ。
ただ……
剣の腕だけは認めていた。
魔剣を持つから強いのではない。
レナの地力が高く、相当な力を持つ剣士として完成されている。
身体能力は超人並。
技量も桁外れ。
このようなことがなければ、殺し合いではなくて、普通の試合をしてみたい。
そう思わせるほどに強いからこそ、惜しい。
ここで斬り捨ててしまうことが惜しい。
「あははっ、やるね! うんうん、さすが剣聖。ボクとここまで戦うことができたのは、君が初めてだよ!」
「それは光栄ですね。ならこのまま、あなたを負かす栄誉ももらえますか?」
「それはダメー。ボクも、やることやらないと怒られるからねー。っていうわけで……」
レナは、一度、剣を鞘に戻した。
そのまま深く深く構える。
「その構えは……!?」
「真王竜剣術・裏之四……山茶花!」
レナの姿が魔法のように消えて……
気がついた時には剣を抜いて、目の前に迫っていた。
超高速の抜剣術。
「くっ!?」
動揺したせいで、初動が遅れた。
それでも、ソフィアは剣聖の称号を授かる超人だ。
ギリギリではあるがレナの剣を避けて、大きく後ろへ跳んで距離を取る。
「うわ、マジ? 今の避ける? とっておきまで出したのに、まいったなー……でも、これはこれでアリかな? うん、どんどんワクワクしてきた」
「今のは……なんですか?」
「なんのこと?」
「とぼけないでください! 今のは、神王竜の技です!」
やや細部は異なっていた。
だがしかし、四之太刀・蓮華であることは間違いない。
体の芯まで染み込んだ流派を見間違えることはない。
「違うよ。ボクのは、真王竜さ。真って書いて、真王竜」
「真王竜……?」
「そっか、剣聖ちゃんは知らないんだ」
レナはニヤニヤと笑う。
ソフィアが知らないことを知っている。
そのことに優越感を覚えている様子だった。
「どういうことなのか答えなさいっ」
「んー、どうしよっかなー?」
「っ!」
レナの態度にイライラした様子で、ソフィアは殺気をギラギラと放出した。
あまりの迫力に、さすがのレナも驚いたらしく、やや尻込みした様子で言う。
「仕方ないなー。っていうか、剣聖ちゃん、カルシウム足りてなくない? 怒りっぽすぎでしょ」
「どういうことなのですか?」
「わ、わかったから。そんなに殺気を振りまかないでよ。まったく、どっちが悪なんだか……単純な話だよ。ボクが使う真王竜は、分家なのさ」
「分家……?」
「神王竜は長い歴史を持つ流派だ。剣術の頂点に立ち続けている。そんな流派なら、どこかで派生して、分家が生まれてもおかしくはないでしょ?」
「それは……」
その通り、と納得してしまうソフィアだった。
「神王竜は、世のため人々のために振るわれる剣。なら、真王竜は? 歴史の闇に埋もれてしまった、隠された被害者のために振るわれる剣なのさ」
「歴史の闇に埋もれた……?」
「さて、おしゃべりはおしまい。続きをやろうか!」
レナは、業風が吹き荒れるほどの闘気を放ち、かかってこいとソフィアを挑発した。
それに対してソフィアは……
「あれぇ!?」
逃げ出した。




