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186話 女の戦い

 ソフィアは街を駆けつつ、途中、目にした暴漢を叩きのめしていく。

 元を断たなければ意味はないが、だからといって放っておくことはできない。


 子供に襲いかかろうとしていた男の脇腹を、剣の腹で痛烈に叩く。

 骨が砕ける感触が伝わってきた。


 男は悶え、倒れ……

 その間に、手放した魔剣を粉々に砕いてみせた。


 魔剣にどれほどの力があるか、詳細は知らない。

 でも、聖剣エクスカリバーに勝るわけがない。


 女神の力を譲り受けたという聖剣だ。

 人の心を惑わす悪しき剣に負ける道理はない。


「しかし、このままでは……」


 少しでも早くレナを見つけなければいけない。

 しかし、巧妙に隠れているらしく、気配を感じることができない。


「気配を探るのではなくて、目で探した方が早そうですね」


 ソフィアは大きく跳躍して、建物の屋根に飛び移る。

 そのまま屋根から屋根へ跳んで、街を見て回る。


 時折、眼下に見える暴漢に向けて投擲用の短剣を放ち、撃退しつつ……

 レナを探すこと少し。


「見つけました!」

「げっ」


 時計台のてっぺんで、のんびりと昼寝をするレナを発見した。


「泥棒猫が、なんでこんなところに!」

「泥棒猫はあなたでしょう! 私のフェイトに手を出さないでください」

「べーっ、フェイトはボクのものだからね!」

「いいえ、私のものです!」

「ぬぐぐぐっ」

「むむむっ」


 睨み合い、バチバチと火花を散らす二人。

 女の戦いが始まろうとしていたが、


「……って、いけません」


 フェイトを渡すなんてこと、絶対にありえない。

 しかし、今はそれよりも街をなんとかしなければいけない。


 冷静さを取り戻したソフィアは、剣の切っ先をレナに突きつけた。


「この騒動は、あなたの仕業ですね?」

「うーん、どうだろう?」

「とぼけないでください。その首、切り落とされたいのですか」

「怖いなー。ちょっと野蛮すぎない?」

「先に野蛮なことをしたのは、どちらですか」


 今もあちらこちらから悲鳴や怒号が聞こえてくる。

 時折、爆発音も混じっていた。


 昨日までは、街全体が輝いているかのような、とても綺麗な場所だったのに……

 今は見る影もない。


「街をこんな風にするなんて……いったい、なにを考えているのですか!? 破壊と混乱を招いて、楽しんでいるのですか!?」

「人聞きが悪いなー。ボクらは悪魔じゃないんだから、そんなものは好きじゃないよ。むしろ、平和を愛しているかな」

「ならば、なぜこんなことを?」

「必要だから」


 レナは真顔に戻り、淡々と言う。


「ボクらの目的を達成するには、こうする必要があったんだ。この街の秩序を破壊して、負の感情を連鎖、爆発的に増加させて……そして、封印を破壊する」

「封印……?」

「まあ、ボクから言わせてもらうと、これ、自業自得なんだよね」

「なんですって?」


 戯言と一蹴したいところではあったが……

 しかし、レナはウソをついているようには見えない。

 本気でそう思っているみたいだ。


 街は、煉獄が地上に降臨したかのような有様になっている。

 それなのに、自業自得というのか?

 ならば、街の人はいったいなにをやらかしたのか?


「まあ、今の世代の人は関係ないかもしれないけどね。昔、ここに住んでた人達……この街を作り上げた人達がやらかしたことだから」

「……どういうことですか?」

「でもまあ、親の借金は子供が払う、なんてこともあるし。そういう意味だと、罪は引き継がれていく、って考えてもいいのかな?」


 ソフィアの質問に答えず、レナは一人で話を続ける。


「この街は犠牲の上に成り立っている」

「犠牲……?」

「本人が納得した上でなら問題はないけど、そうじゃないからね。無理矢理、そうさせられているからね。なら、この街を破壊してでも、解放してあげるのが筋っていうものじゃないかな?」

「さっきから、あなたはなにを……」

「さて、おしゃべりは終わり」

「っ!?」


 ゾクリと背中を悪寒が走り……

 ソフィアはとっさに後ろへ跳んだ。


 直後、さきほどまで立っていた場所を鋭いなにかが駆け抜けた。


 レナの剣だ。

 いつの間にか漆黒の剣を抜いて、薙ぎ払っていた。


「その剣は……」

「うん、魔剣だよ」


 レナはにっこりと笑い、魔剣を自慢するかのようにソフィアに見せつける。


「今、街で暴れている連中が使っているような劣化品と一緒にしないでね? ボクのために作られた、至高の一品……魔剣ティルフィング」

「……ティルフィング……」


 ソフィアは聖剣を構えつつ、油断なくレナを睨みつけた。


 彼女が手にする魔剣から、すさまじい力を感じる。

 今まで見てきた魔剣とはまったく違う。


 剣そのものが強烈なプレッシャーを放っていた。

 それと、禍々しい黒いモヤが溢れ出している。

 おそらく、並の者なら触れただけで狂ってしまうだろう。


「さあ、勝負をしようか」


 レナは笑う。

 楽しそうに笑う。


「聖剣と魔剣……どちらが本物か。どちらが正しいか。試してみようじゃないか!」

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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。
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